他人の呼吸音が不快に感じるのもハラスメント?
──恋愛ドラマどころか、現実世界での恋愛も難しいですね。
辛酸:告白も「コクハラ」ですしね。ほかに、相手を見るだけのハラスメント「ルッハラ(ルッキング・ハラスメント)」というものもあるそうです。相手を見つめること自体がハラスメントと言われかねない。恐ろしい時代です。
ここで注意したいのは、自分が嫌悪感を抱いている相手が見てきた場合に「ルッハラだ」と感じるのに対し、好きなタイプや格好いい人に見つめられると、嬉しく感じることがある、という点です。
同じ行為であっても、相手によってルッハラになったり、ならなかったりする。これは相手に対して非常に不公平です。自戒を込めて「ルッハラ」をはじめとするハラスメントの判断基準には注意すべきだと思いました。
ほかに「本当にそれはハラスメントなのか」と突っ込みを入れたくなるようなハラスメントもあります。
他人の呼吸音が不快に感じられる「ブリハラ(ブリージング・ハラスメント)」。存在していること自体が迷惑に感じられる「イグハラ(イグジスティング・ハラスメント)」。もはやそれをハラスメント行為とする方が、ハラスメントなのではないかと感じました。
──辛酸さんご自身が「これはハラスメントでは」と感じた出来事はありますか。
辛酸:久々に会った人から「疲れてる?」と言われることがあります。本人は元気なのに、見た目だけで決めつけられるのは抵抗があります。これは「ツカハラ」ではないかと思っています(笑)。
また、外食中に隣の席の人が爪楊枝で歯間を激しくつついているのを見ると、食欲をなくすことがあります。「ツマハラ」と呼んでもいいかもしれません。些細な不快感さえ、すぐ「ハラスメント」に分類してしまう自分にも驚かされます。
──なぜ日本はここまでハラスメントが増えてしまったのでしょうか。
辛酸:最大の要因は、SNSの普及だと思います。「批判殺到」という四文字を見るだけで、ついクリックしてしまう人が多い。それだけ炎上やハラスメントの話題が求められているのでしょう。
自分の経験と重ねて「私もハラスメントされているのでは」と思い込んでしまいやすい構造もあります。新しい言葉がSNSで次々と生まれ、拡散されることがハラスメント概念の膨張に拍車をかけています。
ほかに、世代間の価値観の違いも強く関わっていると思います。