「大人のキッザニア」だったタイミー体験

 都内の幹線道路沿いにある寿司チェーン。

 こういう日雇いをしばしば経験している筆者としては、スポット仕事の最初の難関は「従業員出入口がわかりにくい」ことだと思う。出入口を探して周囲をぐるぐる周り、遅刻しそうになることもあるので、30分くらい余裕を持って到着。

「いらっしゃいませえー!」

 鉄の扉をそおっと開けると、調理場には5〜6人の寿司職人が、ネギトロを巻き、バーナーでマグロを炙り、ボールに大量の玉子を割る真っ最中だった。すでに週末ランチのバックヤードは戦場と化している。

「タイミーから来ました」と告げると、以後、ここでの呼び名は「タイミーさん」である。名前は聞かれも呼ばれもしない。

 調理場には主に中高年の男女が10名ほど、ホールは高校生か大学生くらいの男女が10名ほど。外国籍らしき人が1名いる。誰が社員で、バイトで、タイミーさんなのかはわからない。

 壁に貼られたQRコードをタイミーのアプリで読み込ませ出勤完了。渡された板前風の白衣に着替える。なんだかキッザニア(職業体験ができるテーマパーク)みたいだ。

 ボールいっぱいの魚のアラを、グツグツと煮えたぎる大鍋に入れてかき回すおばちゃんの後ろを通り、洗い場に連れていかれた。

「残飯はこっち、紙ごみはこっち。食器に洗剤は付けないでください。機械が故障する原因になるので」

 今どきの飲食店に「皿洗い」という仕事はない。皿から残飯を取り除いて、食洗器に入れる仕事を命じられる。「タイミ―さん」の定番である。

 オペレーションするのは2台の食洗機。

 一つは回転寿司の色皿だけを洗う専用マシーン。スタート地点の水槽に皿を入れると、皿が自動でコンベアに乗せられ、洗われ、乾かされ、積み上げられていく。

 もう一つは、レンジフードくらいの大きさの業務用食洗機。中ではザバァーっと暴風雨のような高圧洗浄が荒れ狂っている。

 ホールとキッチンからは、汚れた皿と鍋が容赦なく持ち込まれ続けた。二つの食洗機を効率よく動かそうと皿や鍋を投入するうちに、機械の奴隷と化している自分に気づく。あっという間に2時間ほどが過ぎた。