おじさんの恋は気持ち悪い。そして切ない。
少子化・高齢化・晩婚化ニッポン。迫りくる老い、平凡でストレス過多の日常。そんなおじさんの心に舞い降りた恋は、果たして地獄か楽園か。さまざまな中高年男子の恋模様を通して、人生100年時代の恋について考えてみよう。
(若月 澪子:フリーライター)
若者がやりたいことは、高齢者もやりたい──。
この秋に、恋愛リアリティーショー「バチェラー」のアメリカ版が、65歳以上の男女の恋愛「ゴールデン・バチェラー」を放送するという。
60歳以上の男女を対象にした内閣府の調査では、高齢者の恋愛や結婚について「良いことだと思う」と答えている人は45.3%にのぼる。反対に「あまり良いことだと思わない」と答えた人は10.5%にとどまった。
◎高齢者の恋愛・結婚観(内閣府)
若者と同じように高齢者にも性欲があり、恋愛もするという事実に、ようやく世間も目を向け始めている。
そんな高齢者の仲間入りをしたばかりのミツオさん(65)は今、全力でキスをしている。キスの相手はスミレさん(70)である。
ここはスミレさん宅のリビング。家の中にはミツオさんとスミレさんの二人しかいない。さっきまで一緒にお酒を飲んでいたスミレさんの夫(70代)は、席を外しどこかへ出かけてしまった。
お天気のいい土曜日の昼下がり。スミレさんの夫は、二人のことを知ってか知らずか、散歩に出かけるといつも小一時間は帰ってこない。
「もう、こんなキスが何回目だろうか。今日はもっと次までいこうか。いや、やっぱりそれは無理か……」
ミツオさんはそんな葛藤を行きつ戻りつしながら、スミレさんと唇を合わせている。スミレさんの吐息がミツオさんの顔にかかる。