「あれ、こんなところでおじさんが働いてる......」
近年、非正規労働の現場で、しばしば「おじさん」を見かける。しかも、いわゆるホワイトカラーの会社員が、派遣やアルバイトをしているケースが目につくのだ。45歳定年制、ジョブ型雇用、そしてコロナ。人生100年時代、中高年男性を取り巻く雇用状況が厳しさを増す中、副業を始めるおじさんたちの、たくましくもどこか哀愁漂う姿をリポートする。
(若月 澪子:フリーライター)
合格は「父親の経済力」
「君たちが合格できたのは、父親の経済力と、母親の狂気……」
中学受験の熾烈な戦いを描いた漫画『二月の勝者』の冒頭の名セリフである。この国では、父親の経済力が子どもの将来を左右する。
金がなければ戦争はできない。受験戦争もまた然り。
では、教育費が捻出できない家庭はどうなるのか。地方都市ではしばしば、子どもの将来のために副業をする父親に出会う。
「副業を始めた頃は二人の子どもが小学生で、塾や習字・ピアノ・スイミングなど、いろいろな習い事をさせていました。月に6〜8万円はかかっていたと思います」
こう話すのは、サラリーマンのかたわら夜の冷凍倉庫で副業をするHさん(50)。関西の大都市圏に住むHさんの本業は、プラスチック樹脂を加工する従業員数20名ほどの製造業の営業マンだ。
「当時の年収は400万円くらいでした。住宅ローンは65歳までかかる。子どもたちの今後も考えたら、もっと稼がなければいけないと思い副業を始めたんです」
Hさんは本業が終わった後に週4日、冷凍倉庫に通い、月5万〜10万円ほどの副収入を得てきた。
「冷凍倉庫の夜勤バイトは11年やっています。庫内はマイナス20度、メチャクチャ寒いです」
Hさんはこのバイトを新聞のチラシで見つけた。
「家から近かったことと、始業時間に融通が利く点から選びました。運動不足解消にもなるかと」
とはいえ、マイナス20度に11年は苛烈だ。氷点下はどんな労働環境なのだろう。
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