やなせたかしさん(2013年当時) 写真/時事通信社
(鷹橋忍:ライター)
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』の主人公・今田美桜が演じる朝田のぶのモデルは、アンパンマンの生みの親である漫画家で絵本作家のやなせたかし(本名は柳瀬嵩)の妻・暢(のぶ)である。やなせたかしは知っていても、その妻となると、あまり知られてはいないのではないだろうか。そこで、暢の生涯を辿ってみたい。
6歳で父を亡くす
朝田のぶのモデルとされる暢は、大正7年(1918)5月18日に生まれた。
大正8年(1919)2月6日生まれの柳瀬嵩(やなせたかし)より、一つ年上となる。
ドラマの朝田のぶは高知で育っているが、暢は大阪府生まれだ。
高知で生まれたのは、暢の父・池田鴻志(いけだこうし/1885~1924)である。
父・池田鴻志は関西法律学校(現在の関西大学)を卒業すると、大正5年(1916)、当時日本一と謳われた総合商社・鈴木商店の系列である九州の炭鉱会社に入社した。
だが、すぐに鈴木商店本体に引き抜かれ、大阪木材部で働くようになる。
大正8年(1919)には、釧路出張所の所長に就任した。
暢が生まれたのは、鴻志の大阪木材部勤務時代である(以上、梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』)。
暢は大阪や釧路で幼少期を過ごしたが、毛皮の襟付のオーバーコートを着たり、バイオリンやピアノを習ったりしたといい(高知新聞社『やなせたかし はじまりの物語 最愛の妻 暢さんとの歩み』)、経済的に恵まれていたようである。
父・鴻志は大正13年(1924)、暢が6歳の時、39歳でこの世を去った。