「無痛分娩の助成」は東京都だからできる?

田辺氏:確かに「無痛分娩の助成」は東京都だからできる公約かもしれませんね。特に東京都は分娩施設も多様にあり、(重症患者に対応する救急体制の)1次〜3次まで医療施設がたくさんあります。1施設あたりの産婦人科医数は東京都が最も多く、一番少ない石川県の3倍もいるという調査もあります。

 東京都は産婦人科医も増加傾向にありますが、地方の約3分の1の地域では医師数が減少しています。日本で60歳以上の医師が3割以上占めていますが、より地方で高齢化が顕著になっています。

 無痛分娩にはマンパワーを揃えないといけないため、運営するにも費用がかかります。出生数に応じた分娩体制を考えると、医療施設の「集約化」は避けられないのかもしれません。

 ただ集約化で見落とされがちな産前産後のケアも抱き合わせて考えなければいけません。日本は小さなクリニックがたくさんあることで産前産後の手厚いケアが受けられた面があります。

──産前産後にどういったサポート体制が必要ですか。

田辺氏:例えば、現在の産後ケア事業は市町村の事業です。事業は、法人や個人、自治体からの委託によって行われていますが、2022年の調査では、利益が出ていて継続可能とする事業体は全体の3割ほどで、採算が取れない事業体が6割を占めています。2020年をピークに新規の開業は減少傾向にあります。とくに出生数が少ない自治体の場合には、利用者も少ないため事業を継続するための体力が弱い。産後の母子を支えるための事業が今まさに支えを必要としています。

 産前の健診や育児相談を無料で受けられる回数も自治体によってさまざまですが、安心して子どもを育てられる充実したサポート体制が求められます。

 フランスでは無痛分娩の場合も含めて、出産費用は全て公的保険が適用されます。出産時だけでなく、未就学児の保育や医療費も公的医療保険で賄われます。分娩時だけでの「小手先」のことではなく、もっと長く捉えて子育て、保護者のサポートをする体制を考えていく必要があります。