- 2023年の出生数(速報値)は8年連続の減少で75.8万人と過去最少となった。
- 作家の橘玲氏はインタビュー前編で「性愛格差こそが未婚者急増の本質」と語った。
- 橘氏が懸念するのは、一人の男性と一人の女性が結婚し、子どもを産み育てるという「一夫一妻制」を前提にした現代社会の崩壊だ。打開策はあるのだろうか。インタビューを2回に分けて掲載する。(JBpress)
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
【前編】モテ男とエロ資本あり女しか結婚できない悲劇、橘玲氏「少子化は自由恋愛の帰結、弱者男性と上方婚女性が大量発生」
「自由恋愛」が破壊した結婚の価値観
──前編で橘さんは、自由恋愛は自己責任であり、結ばれるカップルの数が減っていくのは自然の流れである、と説明されました。解決策はあるのでしょうか。
橘玲氏(以下、敬称略):社会がリベラル化し、「自分らしく生きるのが素晴らしい」という価値観が広まれば、若い女性の選り好みがきびしくなり、その結果として「弱者男性」が増えてしまいます。リベラル化は時代の必然なので、この大きな潮流を押し戻し、ほとんどの男が結婚できた「古き良き昭和」の時代に回帰することはできないでしょう。
人類史を見ると、旧石器時代の狩猟採集社会では、一部の男が共同体の女を独占するのではなく、男たちが結託して女を平等に分配していたはずです。ムラのなかで性愛格差が生じると共同体が崩壊し、殺し合いになってしまうからです。
日本も戦前までは、家柄で結婚相手が決まっていたり、適齢期になると親や親戚が相手を見つけてくるのが当たり前でした。これは社会が「イエ制度」によって成り立っていたからで、結婚式は女を交換することでイエとイエが結びつく儀式でした。
それに加えて、近代の西欧で厳格な一夫一妻制が始まったのは、国民国家の成立があります。ナポレオン以前は、市民を徴兵して、国のために生命を掛けて戦わせるという発想はありませんでした。戦争は騎士や武士が行なうもので、大多数の農民はそれを見物していたのです。
若い男を戦場に送り込んでおきながら、一部の権力者が安全な場所で女を独占することが許されるわけがありません。近代国家が総力戦を戦うためには、すべての若い男に、戦場から帰ってきたら英雄になれるし、性愛も手に入ると約束する仕組みが必要だったのです。
こうして一夫一妻制が世界的に広がり、一夫多妻や“めかけ”をもつことが不道徳(女性の人権侵害)と見なされるようになったのだと思います。