身体は「人権」、無痛分娩も含めどう産みたいかが大切

田辺氏:これらの根底にあるのが、日本社会の女性に対する「眼差し」だと思います。女性の痛みに対して社会がどう思っていたのか、と言うことです。

 身体は「人権」です。男性には理解しづらい痛みということもあったかもしれませんが、「痛みをとって出産したい」という人権に対してもう少し社会が関心を持っていれば、そこへ取り組む政治家、経営者、医師がいたはずです。上っ面な助成だけではなく、根底の部分から変わらないと無痛分娩は広がりません。

 もちろん、無痛分娩の選択肢があるのと同じように、自然分娩を含めて女性がどう産みたいかが尊重されることが大切です。

──無痛分娩のリスクを心配する妊婦さんも少なくないと思います。

田辺氏:無痛分娩に限らず、どんな分娩にもリスクが絶対にあります。無痛分娩の起こり得るリスクとして想定されているのは、麻酔の合併症です。2017年に無痛分娩に関する事故の報道がいくつか出て、社会では「無痛分娩はやっぱり危ない」といった不信感が広がりました。

 一方、安全な無痛分娩の体制を本気で整えようとする大きなきっかけにもなったと感じています。医療側は「周産期医療への不信感をなんとしてでも拭わないといけない」との使命感のもと、安全な無痛分娩に向けた厚生労働省の研究班ができたり、JALA(無痛分娩関係学会団体連絡協議会)が立ち上がったりと、無痛分娩をするなら絶対安全にしようという意識が医療界で強くなりました。

 当然のことですが、明らかとなっているリスクを極限まで最小にできるよう、学会やJALA、病院レベルでもシミュレーション教育などに取り組んでいます。

 2018年に海野信也氏らによる厚労省の研究班が出した「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」の中に、常勤医の中から麻酔科専門医などの資格を有した「無痛分娩麻酔管理者を配置すること」いったことが盛り込まれました。この提言がきっかけとなり、日本でも専門の麻酔科医が無痛分娩の硬膜外麻酔を担当する体制が広まってきています。

──無痛分娩ができる体制を地方にも普及するのは難しいのではないでしょうか。