「痛みに耐えて産んだ」でマウントをとってきた

田辺氏:10~20年前の日本では、「無痛分娩は母性の育みを阻害してしまう」「自然な体を持っているから自然に産むのが当たり前」というような風潮が蔓延していました。それは一般の人だけでなく、医療者の中にもありました。

 もっと古い話をすると、日本ではかつて「(戸主が家族を統率する)家制度」がありました。「家制度」のもとで、嫁に入った家の中における女性の位置取りの手段に出産が使われた面があります。次の代に向けて「男児を産んだ」「痛みに耐えて産んだ」ということを家族に示すことで、家庭内での地位を築こうとしたと思われるのです。

 女性同士の中でも「出産による序列化」の風潮がありました。まず産むか産まないか、産むなら帝王切開なのか経膣分娩か。経膣分娩の中でもどれほど痛みを感じて産んだか…と、女性として自分の体をどれだけ使ったかマウントをとるような風潮がありました。

 ただここ数年は、共働きの家族の増加や女性の経済的自立に伴いその風潮は弱まっていると感じます。今「無痛分娩はけしからん」などと言うと、さすがに笑われると思います。

──無痛分娩を敬遠してきた風潮以外にも日本で広がらなかった理由はありますか。