「女性にとっての権利」、フランスでは政府主導で無痛分娩が広がる

田辺氏:日本の分娩施設が多様なことも背景にあります。日本では総合・大学病院、産科専門クリニックや周産期母子医療センターなどがあり、規模も様々です。一方、フランスやアメリカでは医療施設が大規模な病院に集約化されていて、大半の人が大きな施設で分娩します。そのため無痛分娩ができる設備や人材、技術が集約された体制が確保されています。

 特にフランスの場合は、政府主導で無痛分娩が広がった過去があります。かつてはフランスも自然分娩が主流でしたが、1994年、女性政治家のシモーヌ・ヴェイユ氏が保健大臣の時に「(無痛分娩時の)硬膜外麻酔は贅沢品ではない。女性にとっての権利だ」と演説しました。フランスの場合は大半が公立病院のため、そこから一気に政府主導で無痛分娩に対応する体制が進んだのだと思います。

 日本の場合は因果関係をどう捉えるかは難しいですが、そもそも無痛分娩の需要が少なかったために必然的に経験する医師が増えず、技術が確立していきづらかった面があります。産科医も無痛分娩は現場に出てから学ぶという感じで、無痛分娩の教育制度も成熟してきていませんでした。

 加えて、日本の無痛分娩は産婦人科医が麻酔をしてきたという特徴があります。他の主要国では麻酔科医が専門で担当していますが、日本では本来専門ではない産婦人科医の先生が麻酔を任されていたため、負荷となっていたところがあると思います。

──こうした複合的な要因で日本では無痛分娩が広がらなかったのですね。