高裁の計算間違い

 この時点の1株価値は8ウォンだった。

 1998年に父親の先代会長、崔鍾賢(チェ・ジョンヒョン)氏が急死した際の1株価値をソウル高裁は「100ウォン」、2009年にこの企業が上場した際の1株価値を3万5650ウォンと算出した。

 崔泰源会長が保有する株式は先代会長の時代に価値が「12.5倍、先代会長がなくなった1998年から上場する2009年までの間に355倍になった」というのが判決文内容だった。

 ソウル高裁は、「先代会長時代より、崔泰源会長時代の方がはるかに企業価値を増大させた」ことを示したのだ。

 それだけ夫人の「内助の功」も大きかったということだ。

 ところが、だ。このソウル高裁の計算が間違いだったのだ。

 1998年の1株価値は「100ウォン」ではなく、「1000ウォン」だった。韓国メディアによると、判決文には「計算式」まで乗っていたが、計算を誤ってしまった。

 となると、先代会長時代の企業価値の拡大は12.5倍ではなく125倍、崔泰源会長時代の企業価値拡大は355倍ではなく、35.5倍ということだ。

 崔泰源会長時代にものすごく株式の価値が増えた。だから、それだけ盧素英氏の貢献も大きかった。こう言いたかったのかもしれないが、計算を10倍間違えてしまったのだ。

 崔泰源会長側の主張を受け入れてソウル高裁は、6月17日までに計算に誤りがあったとして判決文を修正した。

 崔泰源会長側は「決定的な誤りだ」と判決を批判し、大法院での判断を求めた。

 韓国の弁護士に聞くと「誤字脱字や単純な計算間違いで判決文を修正することはまれにある」「新聞報道を見ただけだが、今回は、誤字脱字や小さな計算ミスですむ内容でないような気もする。なんで間違えたのだろう? 大変珍しいケースだ」と言う。

絶対に受け入れられない

 崔泰源会長はこの日、ソウル高裁判決に対してもう一つ批判をした。

 ソウル高裁判決は、SKグループの発展に、盧素英氏の父親である盧泰愚(ノ・テウ)元大統領の「機密資金」が大きな役割を果たしたと判断した。

 盧泰愚元大統領が1990年代に先代会長と崔泰源会長に300億ウォン以上を渡し、これを使って企業買収などを進めた。

 また、「大統領の娘と結婚した」ことが崔泰源会長がグループ経営権を掌握することに大きく寄与したと判断した。

 盧泰愚元大統領の「機密資金事件」は韓国での政経癒着の黒い歴史そのものだ。

 この不正資金がSKグループの発展の契機になったことなど、崔泰源会長としては絶対に認められないはずだ。

「大統領の娘と結婚した」おかげで経営権を固めたというのも屈辱的な判決だ。崔泰源会長は「偏った判決」と強く批判した。

 財産分割の根拠に誤りがあったうえに、機密資金を基礎にSKの発展があったなど全く事実に反すると、全面的に争う姿勢だ。

 ソウル高裁は崔泰源会長らの会見を受けて18日に、「計算の間違いを修正したが、財産分割などには影響はない」という「説明」を出した。

 韓国でも、裁判所が判決を修正し、さらに「補足説明」までするのは、「極めて異例」(韓国紙デスク)だという。