夜間の鉄道廃線を歩くイベントは、単発ではこれまで事例があるものの、定期的に開催されるのは全国で初めてと思われる。コースは横川寄りの日帰り温泉施設「峠の湯」を発着点に、廃止された新線の一部区間を約1時間歩く。原則、毎週末に開催され、日中の「廃線ウォーク」が終了した後、夕方から夜の時間におおむね15分おきに出発する。
守護者「峠のカモシカ」も登場
実際、夕刻発の回に参加してみた。
まず、参加者にランタンとペンライトが渡される。ペンライトは懐中電灯以外にも、イベント中にも使われる。出発地点の「峠の湯」は新線の下り線の線路に近く、程なく立入禁止の線路内に入る。すでに陽は落ちており、あたりは薄暗い。
鬱蒼と暗い山の中をしばらく歩くと、ガイドから、線路脇の鉄道用の勾配標や距離標などにペンライトを当てるよう案内がある。すると、どこからともなく、仙人のような野太い声が聞こえた。これは守護者「峠のカモシカ」の声を演出したもので、碓氷峠の山々に生息するニホンカモシカがモデルだ。
続いて、メロディックライトウォークのメインキャラクター「ヨン」と「ロクサ」の声が耳に入る。「ヨン」「ロクサ」という名前は、かつて碓氷峠専用の電気機関車で、今も鉄道ファンに人気のあるED42形、EF63形の愛称名だ。
旧信越本線の横川~軽井沢間では、「66.7‰(パーミル)」(水平方向に1kmメートル進んだとき66.7mの高低差が生じる勾配)という国鉄・JR史上最大の急勾配が延々と続いた。その急勾配を克服するため、軽井沢方面に向かう特急・急行など全ての列車の最後尾に専用の電気機関車が増結され、はるか前方の先頭車両の運転士と呼吸を合わせながら峠を乗り切る「協調運転」が行われていた。
「峠のカモシカ」はこのように語りかける。
「かつて横川のまちには、峠からこだまする汽笛の音が届き、それは碓氷峠では機関士たちの合図やコミュニケーションのための重要な音だった。時代の流れとともに鉄道は廃線となり、『ヨン』と『ロクサ』の大切なものは失われてしまった。人間たちよ、メロディックライトでメロディのかけらを集めて、皆の力でそれを取り戻してほしい…」