かつて活躍した機関車の汽笛が鳴り響く
線路を歩き、次々に設けられた定点ポイントをペンライトで照らしていくと、線路左側の樹々が光り、鮮やかなプロジェクションマッピングが音楽とともに映し出された。樹々だけではなく、トンネル内のコンクリートの側壁や待避所、さらには線路を支えるコンクリートの土木建造物である築堤や法面(のりめん、切土や盛土により作られる人工的な斜面)にもストーリーが流れ、穏やかなメロディとともに、かつてこの峠に轟いていた機関車の汽笛が鳴り響く。
トンネル内ではLED照明でレールが鮮やかに照らし出され(この時の光り具合が派手過ぎず、廃線トンネルの持つ独特の雰囲気を損ねないところが秀逸だ)、ランタンを持った参加者たちが廃線の風景に溶け込むようだ。
コース終盤には樹々の合間に張られた幕に碓氷峠の鉄道の歴史の短編フィルムも映写される。一連のストーリーとして理解しやすい内容で1時間はあっという間だった。また、途中空を見上げると、樹々の合間から澄み切った星空が広がり、普段立ち入ることのできない碓氷峠の夜の美しい風景に息を呑んだ。
群馬県内の映像制作会社と連携
このメロディックライトウォークは、安中市観光機構が群馬県内に本拠を置く映像制作会社Sunset filmsと連携して企画、運営するもので、群馬県、安中市からの助成により実現した。
昨今の旺盛なインバウンド消費に対応できる“ナイトタイムエコノミー”は、東京など大都市を中心に各地で取り組みが広がっている。ただ、長いコロナ禍を経て観光業の人手不足が顕在化しており、ビジネスモデルを軌道に乗せるには至っていない。全国的にはまだ緒についた段階と言えよう。
そんな中、筆者がメロディックライトウォークに注目するのは、今まで観光消費と無縁だった碓氷峠の夜間の時間帯に新たな消費を生み出すポテンシャルを肌で感じたからだ。