学びの質はデジタルより紙の方が上
ハンセン:同じ文章を紙(本)で読むのと、パソコンやスマホのスクリーン上で読むのでは、紙の方が多くを学ぶことができ、学びの質も高くなります。書かれている内容がシンプルなことであればそれほど違いはないのですが、内容が複雑になるほど紙の方が深く理解できます。
就学前の子供を対象にした調査で、「手で紙に書く」という運動能力が文字を読む能力と深く関わっていると示されています。小さい頃から長時間スマホやタブレット端末を使用している子供は、のちのち算数や理論科目を学ぶために必要な運動技能を習得できていないという警告もあります。
成績が上位の生徒は、学ぶツールにそれほど大きな影響を受けません。しかし勉強で苦労している子たちは、紙とデジタル・デバイスでその学習効果には大きな差がありました。タブレット端末より紙で学んだ方が、成績が上がることが分かったのです。気が散りづらいのでしょう。集中力や記憶力、言語能力については、スマホをやっている時間が短い子供と、睡眠時間の長い子供の方がいい結果が出ています。
──人間は複数のことを同時にはできない、マルチタスクは集中力や思考力を奪う。しかしスマホは「ながら」になりやすい。スマホは人間の思考する能力を奪っているのでしょうか。
ハンセン:人間は二つのことを同時に行うことはできません。できていると思っていたとしても、それは一つの行動からもう一つの行動へ移っているだけです。短時間に行ったり来たりするプロセスを繰り返して、前にしていたことに意識を奪われているので、効果的に脳を使っているわけではありません。マルチタスクをこなすことに自信がある、という人もいますが、実際「マルチタスクが得意と答えた人」のほとんどは、集中がかなり苦手だという調査結果があります。
現代社会において価値があるのは「集中力」です。勉強をしながらSNSをチェックしたり、スマホをスクロールしながら仕事をしたりしていては、学ぶために余計な時間がかかり、脳にとっても非効率です。深い思考に辿り着かないし、学ぶ喜びもないし、生きる助けにもなっていません。
邪魔が入ると気が散るのは、人間が生きるための習性です。かつて人間は、現在のように癌や心臓病で亡くなるのではなく、動物に襲われ、感染症にかかり、飢餓や事故、争いによって死にました。寿命も短かった。そういう世界では常に周囲に注意を払う必要がありました。集中力は重要ですが、切れやすいものなのです。私自身も、集中したい時や読書の時、患者と会う時、原稿を執筆する時は、集中力が削がれないようにスマホを別の部屋に置くようにしています。
──スマホをたくさん使うほど、なぜ人はうつになるのでしょうか。