価値観を押しつければ自らの首を絞めることに

 ミドル層を形成する40代や50代が社会に出たばかりのころは、終身雇用を前提とする機運がいま以上に残っていました。しかし、雇用の安定性と引き換えに会社からの束縛は強く、入社と同時に自由を謳歌していた学生時代から一転、「辞めても代わりはいくらでもいる」と言わんばかりに厳しい上下関係の中で社員を育成するケースも見られました。

 そんな環境に音を上げ、元気がない様子を見かねた先輩から誘われた飲みの席で「もう辞めたいです…」などとこぼせば、「自分もそうだった。でも、辞めると絶対に損するぞ。歯を食いしばって、まず3年は頑張ってみろ」などと諭されたりしました。

 そして、そのアドバイスはあながち間違いだったとは言えませんでした。

 理不尽なことがあったとしても耐え抜き、会社に残って敷かれたレールを歩き続ければ、年功序列で確実に地位も給与も上がっていく。そして、定年退職を迎えれば十分な退職金を得て悠々自適の老後生活が待っている。そんな生涯設計が描けるからこそ、個人の都合より会社の都合優先で、画一的な職場風土に合わせることが求められれば従順に従い、出る杭となって打たれないよう自らに言い聞かせ保守的であろうとする。

 当時はそれらの振る舞いが、社会に出て生きていくうえでの最適解だった面があります。ミドル層が新人だったころに昭和世代の価値観を教えた上司や先輩たちは、それが正しいと信じるからこそ、心を鬼にして叩き込んだのだと思います。

 ただ、昭和世代の価値観という自分たちの土俵の上で絶対的な上下関係が築かれるので、新卒社員の育成は、一方的に指示して従わせる支配者的スタンスになりがちでした。そうやって昭和世代の価値観を体に染みこませたミドル層としては、真逆に位置するZ世代の価値観を感情的には受け入れ難いのかもしれません。

 ですが、いまは人口減少社会です。団塊ジュニア世代は200万人を超えていた出生数が、2022年には80万人を切るほどまで少子化が進んでいます。また、ミドル層の多くが経験した就職氷河期から一変し、Z世代を取り巻く環境は売り手市場です。「辞めても構わない」と自分たちの価値観を押しつけたりすれば、本当に辞めてしまい代わりを採用できず、かえって自分たちの首を絞めることにもなりかねません。

 そんな環境がミドル層を委縮させると、価値観を受け入れられない感情との板挟みが起きて接し方がわからなくなり、Z世代を腫れ物のように扱ってしまうことになりそうです。しかし、会社は仕事する場所です。どの世代がどんな価値観を持っていようとも、仕事の目的が成果を出すことにある点は、過去もこれからも変わりません。

 多くの会社は、長年市場で受け入れられてきた商品やサービスを持ち、確固たる関係性を築き上げてきた顧客がいます。それらは守らなければならない財産であり、成果を出すには、過去の成功パターンをしっかり受け継いで守っていくことが最も確実な方法です。

 そんな、言わば「守りの成果」を求めるのであれば、一生勤め上げることを前提に入社し、先輩たちに言われた通りに業務を習得して同じように再現し続けることを良しとする画一的な昭和世代の価値観は最適です。

 一方で、時代の移り変わりとともに顧客ニーズも変化し、過去の成功パターンを受け継ぐだけでは成果が出せなくなることもあります。また、会社を発展させていくにはニーズの変化を捉えて新たな価値の提供に挑戦することも必要です。そんな「攻めの成果」を生み出すのであれば、会社にしがみつくのではなく自律的に活動し、個性を発揮しながら新しい可能性を切り拓こうとするZ世代の価値観は適合します。