(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
長らく「非現実的で夢の働き方」だったテレワーク
コロナ禍で緊急事態宣言が発出される中、政府が経済界に出勤者の7割減を呼びかけるなど、一時は強く推奨されたテレワーク。しかしながら、いまは出社回帰が進み、通勤電車は押し合いへし合いの混雑風景が戻っています。
その多くは、接客業や介護職のように職務の性質上テレワークが難しいか、テレワーク導入がうまくいかず出社に戻すしかなかった職場ですが、中にはテレワーク導入はうまくいったのに、基本的な働き方を出社にしている職場もあります。
テレワークをめぐる意見はさまざまです。テレワーク経験者からは「通勤生活に戻るなんて考えられない」と言う声が聞かれます。テレワーク経験がない人からは「一度でいいからテレワークをしてみたい」と熱望する声も聞きます。
その一方で、「出社していろんなことを吸収して、早く仕事を覚えたい」と訴える新入社員や、「出社しないと仕事とプライベートのオン・オフがうまく切り替えられない」「家にいると仕事がはかどらない」とぼやくベテラン社員もいます。
また、あえて出社を選んでいる経営者たちからは、「会社のカルチャーを醸成したり、代々受け継いでいくには出社して空間を共有したほうがいい」とか「お互いに顔を見ながら会議したほうがアイデアも浮かぶ」といった声が聞かれます。
日本生産性本部が公表している『働く人の意識に関する調査』によると、テレワークの実施率はピークだった2020年5月の31.5%からジリジリと減少傾向が続いています。直近の2023年7月には、ついに15.5%と半減してしまいました。テレワーク推進は、このまま衰退していくのでしょうか。
かねて、政府はテレワーク推進に力を入れてきました。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省によってテレワーク推進フォーラムが設立されたのは2005年。いまから18年も前のことです。
しかしながら、政府の呼びかけもむなしく、テレワークは長い間ずっと非現実的で夢の働き方でしかありませんでした。テレワークに対する世の中の認識は「できなくて当たり前」であり、ほとんどの職場は出社以外の選択肢を持たない「出社一択型」でした。
それが一気に身近な存在へと変わったのは、皮肉なことにコロナ禍の発生が原因です。緊急事態宣言が発出される中、経済活動を止めないよう半ば強引にテレワークが推進され、多くの職場も働き手もテレワークを経験したため、「できなくて当たり前」だった時代から、「できないのは当たり前ではない」時代へと大転換しました。