(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)
内部告発による自浄作用はどこまで働いているのか
ジャニーズ事務所は社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更しました。今後は故ジャニー喜多川氏による性加害の補償に全力を注ぐ意向です。
記者会見で東山紀之社長は、性加害の噂は聞いていたもののジャニー喜多川氏を信じていたこと、自ら行動できなかったことなどについて反省を込めて語りました。ジャニーズ事務所所属タレントの中でも筆頭格とされる東山氏でも行動を起こせなかったとなれば、他のタレントや関係者はなおさらです。
ジャニーズ事務所に限らず、社内で不正が行われていることを知ったとしても、大抵の人は自ら先頭きって改善できるほどの力を持ち合わせていません。だからといって、社内で力のある人に協力を求めたとしても、「余計な詮索をするな!」と叱責でもされたら委縮してしまいそうです。
さらには、不正を訴えたことで降格、減給、解雇などの報復措置をとられてしまう心配があれば、泣き寝入りするしかありません。そのうえ、社内での自分の立場は危うくなり、一方で不正行為の事実は闇に葬られてしまうとなれば、踏んだり蹴ったりです。
そんな、社内という閉鎖的な場で行われる不正を通報した者が泣き寝入りしなくて済むよう守り、内部告発者に対する不利益な取り扱いを禁止する「公益通報者保護法」が2006年に施行されました。
消費者庁の『公益通報ハンドブック』によると、「公益通報とは、(1)労働者等が、(2)役務提供先の不正行為を、(3)不正の目的でなく、(4)一定の通報先に通報することをいいます」とあります。
(1)にある労働者等とは、労働者・退職者・役員のことです。正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれます。(2)にある役務提供先の不正行為とは、自身が働く業者で行われていた不正です。また、(3)に不正の目的でなく、とあるように通報することによって不正に利益を得たり、他人に損害を加えることなどを目的にしてはなりません。
(4)にある一定の通報先とは、「事業者内部」と「権限を有する行政機関」、「その他の事業者外部のいずれか」です。「権限を有する行政機関」は対象となる法律ごとに異なり、消費者庁ホームページの「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」にて検索できます。「その他の事業者外部のいずれか」とは、報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合、周辺住民などです。
公益通報者保護法施行以降、最高裁判決までもつれ込んだ精密機械メーカーの不正競争防止法違反や準大手ゼネコンの不正会計、小型車を主力とするメーカーの衝突試験の不正、ビッグモーターによる保険金の水増し請求など、いくつもの不正が明るみに出ました。内部告発による自浄作用が、一定程度働いてきたことがうかがえます。
社内という密室は、基本的に外部からの目が届きません。もし不正を行って外部の目に触れそうなものなら、懸命に隠します。そのため、社内にいて実情を知る者が自浄作用を働かせない限り、どうしても防ぐことができない不正は存在します。