- 政府は旧統一教会に対する解散命令を裁判所に請求する方向で最終調整に入ったと一斉に報じられている。過去数十年にわたり様々な問題が指摘されてきたにもかかわらず、なぜこれまで解散命令に至らなかったのか。
- 背景にはジャニーズ事務所の性加害問題にも通じる大手メディアの追及の甘さもあるのではないだろうか。旧統一教会をめぐる問題は1960年代から世間の注目を集めていた。
- 英国では今年、BBCが「ライフコーチング」を語り巨額の資金を騙し取ったとされる集団を、弱みにつけ込む「カルト」だとして徹底追及。メディアが果たすべき役割を果たしている。日本はどうか。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
盛山文科相は10月3日の記者会見で、旧統一教会に対する解散命令請求について「客観的な事実を明らかにした上で最終的な判断を行うための対応を進めているところ」と述べた。報道各社は9月30日、政府は旧統一教会に対する解散命令請求に向けた最終調整に入り、早ければ10月12日にも文部科学省宗教法人審議会が開かれると報じている。
霊感商法による多額の献金で家族が無惨に引き裂かれるなど、旧統一教会を巡る様々な問題は昨夏の安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに大きな注目を集めてきた*1。実行犯である山上徹也被告は逮捕直後から旧統一教会へのうらみを犯行動機として語っている。安倍氏および祖父の岸信介元首相や自民党など、政界と同教団との深い関係については、事件後にTBS報道特集などで詳報され、在英の筆者も去年になってその詳細を知ることができた。
*1:鈴木エイトが語る「安倍元首相を襲う前、山上徹也が僕に送ったメッセージ」(10月1日付、JBpress)
解散命令請求に向けた調整の報道を受け、全国霊感商法対策弁護士連絡会は9月30日、「私たちが30年以上主張してきた請求が、ようやくなされることになる」と述べ、期待感を示した。
しかし、現在ジャニー喜多川による性加害で火だるま状態のジャニーズ事務所(「SMILE-UP.」に改名)の問題と同様に、30年以上もの間、なぜ主要メディアは元首相の銃撃という一大事に発展するまで、旧統一教会の問題をこれほど大きく報じてこなかったのか。この問題をより早く追及していれば、もっと早く団体の解散命令請求につなげることができたのではないだろうか。
同教団の霊感商法はすでに1980年代から朝日ジャーナルが社会問題として告発していた。そこには長い病などに苦しむ人たちの心の隙間につけ込み、今の不幸は先祖の悪行が原因などと不安をあおって高額のつぼや印鑑などを売りつける様子が克明に記されていた。
安倍元首相銃撃で起訴された山上被告の母親は、夫の自死や重病に見舞われた長男(のちに自殺)、自分の母の死などが重なり、信仰に走ってしまったという。報道によれば、母親から教団への多額の献金が親族に発覚したのは1994年。同被告はその4年後に名門高校を卒業したにもかかわらず、金銭的な問題から大学進学も叶わなかった。暮らしていた家も献金の餌食になり、兄妹の生活が自分の死亡保険金で楽になればと自殺未遂まで起こしたとされている。
1990年代の統一教会といえば、桜田淳子さんや山崎浩子さんが同団体の集団結婚式に参加して騒動になったほか、飯星景子さんの告発手記などで週刊文春が追及、霊感商法関連の裁判で教会側が敗訴するなど、世間的にも注目されていた時期だ。