弱みにつけ込み被害拡大

 旧統一教会は政界とのつながりにより巧みに生き抜いてきた背景があったかもしれない。しかし、その頃主要メディアが現在ジャニーズ事務所に対して行っているような総攻撃を同団体にも続けて、解散命令請求が出される事態に発展していたら、霊感商法や多額の献金などによる、山上被告の家族のような被害者の拡大を未然に防ぐことができたかもしれない。

 筆者は東京の海外メディアで働いていた90年代後半、別のある大手新興宗教について取材をしたことがある。その後、複数回自宅の固定電話で友人などと会話をしている際、その団体の名前を出すと突然通話が切れることが続いた。

 同団体に自宅の電話番号は伝えたことはなかったので、考えすぎかもしれない。しかし、こうした団体についての闇を知れば知るほど、特に大手放送局や新聞・雑誌社などの後ろ盾がなく法的にも対抗措置を取れない、いわば丸腰状態のフリーランスの身では太刀打ちできないと感じる。旧統一教会問題を長年にわたり訴え続けてきたジャーナリストの鈴木エイト氏には、心底敬意を払いたい。

 逆に言えば、組織的に対峙できる大手報道各社には、継続取材や大々的な告発が可能だったのではないだろうか。

山上徹也被告(写真:共同)山上徹也被告(写真:共同)

 1960年代から旧統一教会の学生組織に参加した若者が家族や学業から離れて活動を始めるなど、同団体は長期にわたり問題視されてきた。90年代にも一時期注目されたにもかかわらず、いわゆる「2世信者」にまで被害は拡大。元首相の銃撃などという前代未聞の事件まで起きてしまった。

 繰り返されてきた悲劇の背景を知れば知るほど、精神的に弱っていたり、人生の目的を見失っていたりする弱者を狙う商法に対しては、主要メディアが早いうちに徹底追及し、その芽を摘むべきだと痛感する。

 特にコロナ禍以降の物価高などによる経済的不安や、リモートワークなどにより希薄となった周囲とのつながり、SNSに依存しがちな生活など、ふとした気持ちの弱り目につけ込む商法が、その触手を巡らせている可能性がある。日本でも既に社会問題化している暗号資産(仮想通貨)など実態がない商品への投資を勧誘する「モノなしマルチ」はその典型かもしれない*2

*2「モノなしマルチ商法」注意 相談3500件、半数20代以下(7月10日付、日本経済新聞)