いよいよパリ五輪が開幕する(写真:共同通信社)いよいよパリ五輪が開幕する(写真:共同通信社)

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 いよいよパリ五輪が開幕した。前回の東京大会は、残念ながらパンデミック下での開催となってしまい、ほとんどの競技が無観客で行われた。しかし今回は、私たちがよく知っている、熱狂的なスポーツの祭典としてのオリンピックが見られそうだ。

 パリ五輪は「コロナ後初」のオリンピックとなるが、今回の大会には他にもさまざまな「初」がある。そのひとつが、国際オリンピック委員会(IOC)による「オリンピックAIアジェンダ」発表後に初めて行われる五輪というものだ。

オリンピックAIアジェンダとは

 いまやあらゆる分野でAIが活用されるようになっており、スポーツも例外ではない。既にAIはスポーツ界で多岐にわたる効果を生み出している。

 たとえば、アスリートたちのパフォーマンス分析では、センサーやカメラから得られたデータをAIが分析し、技術や戦術の改善点を導き出すようになっている。また、彼らの怪我の予防や回復にも役立ち、彼らの身体データを分析して、最適なトレーニング方法を提案するAIなども登場している。

 アスリート個人だけではない。チームスポーツにおける戦略面について言えば、対戦相手となるチームの傾向をAIが分析し、効果的な戦術立案をサポートするということが行われている。

 また競技者だけでなく、競技をつかさどる審判たちもAIの恩恵を受けるようになっている。たとえば、ビデオ判定時、AIが録画された映像を高い精度で分析し、審判に情報提供するといった具合だ。

 他にもファンやサポーターとの交流という面でも、AIがパーソナライズされたコンテンツを提供したり、試合中にベストアングルのシーンを撮影したり、試合結果を予測したりするなど、観戦体験をより豊かにする取り組みに活用されている。

 こうした例はいくらでも挙げることができ、また日々新しいAI活用方法が検討されているような状況だ。

 ただ、これも他の分野と同様、野放図に新しいテクノロジーが導入されるというのは、必ずしも望ましいものではない。それによって、逆にテクノロジー活用が効率的に進まなくなったり、あるいは最悪の場合、意図せぬデメリットがもたらされたりといった事態を招いてしまうからである。

 では、スポーツ界最大のイベントのひとつであるオリンピックは、どのような姿勢でAIを扱うのか。この問いに対して、IOCが2024年4月に発表した宣言が、「オリンピックAIアジェンダ」というわけである。

 AIアジェンダの中心となるのは、IOCがAIを採用する際の倫理的・戦略的な方向性を示した「5つの指導原則」、その原則を実装する際の指針を示した「5つの重点領域」、そしてAIをめぐるリスクへの対応策の3つのパートだ。それぞれ順に内容を追ってみよう。