- 徳島県には、住民票を移すことなく一定期間、小学校の転校手続きが可能になる「デュアルスクール」という仕組みがある。
- ワーケーションをはじめ、多拠点で働く際のハードルになる子どもの就学に関する問題を解決するために導入された制度だ。
- 人口減少が進む地方にとって、関係人口の増大は地域の存続にとって重要なテーマ。デュアルスクールの拡大が望まれる。
(篠原 匡、編集者・ジャーナリスト)
6月20日、徳島県那賀町の相生小学校を訪ねると、ELT(外国語指導助手)による英語の授業の真っ最中だった。自分たちの街にあるもの。それを「in our town」という言葉につなげて発表する授業だ。
その中に、2日前に相生小学校に“転校”してきたばかりの一人の女の子がいた。「デュアルスクール」の仕組みを活用し、大阪の小学校から6年生のクラスに転校した小太刀すみれさんだ。
転校2日目だが、クラスになじんでいるようで、ほかの女の子の会話にも普通に加わっている。
小太刀さんが相生小学校に通うのは、6月19日から30日までの約2週間。学校側も小太刀さんに小学校での生活を楽しんでもらおうと、カヌー体験や地元の郷土料理「かきまぜ」の体験調理など、1学期に予定しているイベントを小太刀さんの滞在期間にあわせて実施した。
「女の子の下の名前はぜんぶ覚えました。でも、男の子はまだかな。来たばかりだけど、楽しいです」
デュアルスクールとは、東京や大阪、名古屋などの都市圏に住む家族がワーケーションなどで徳島に来た場合、子どもを一定期間、県内の小学校に転校させることができるという制度である。
今の教育制度では、小中学生は住民票のある地域の学校にしか行くことができないが、デュアルスクールの仕組みを使えば、住民票を異動させることなく、ほかの学校に通うことが可能になる。
その流れは以下の通り。
小太刀さん家族のように、希望者が県内の地域を選び、徳島県からデュアルスクール事業の委託を受けている株式会社あわえが受け入れ可能な学校や滞在施設を紹介する。その申込情報を基に、徳島県総合教育センターが受け入れと送り出し側の学校・教育委員会に確認を取る。
地方でのワーケーションやサテライトオフィスは当たり前になっているが、子育て世代の場合は子どもの学校をどうするかが問題になる。でも、ワーケーション先の学校に通うことができれば、ワーケーションのハードルも下がる。
小太刀さん一家がデュアルスクールを活用したのは、将来の移住可能性を踏まえたある種の実験だった。