コロナ禍の中、ハローワークに並ぶ人々。雇用調整助成金の申請や相談に訪れる人が急増した(写真:アフロ)

 日本全体が低成長に陥る中で、増え続ける生活困窮者を社会全体でどのように支えればいいのか。生活困窮者自立支援制度はどうあるべきなのか──。社会保障審議会の委員を務める生水裕美氏(元滋賀県野洲市市民部次長、一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター地域連携推進部 地域支援室長)と、神奈川県座間市生活援護課で独自の支援体制を構築した林星一氏(現福祉部参事兼福祉事務所長兼福祉長寿課長)による対談の後編(聞き手:篠原匡、編集者、ジャーナリスト)

◎前編「福祉関係者にも知られていない生活困窮者自立支援制度の存在意義:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72556」から読む
◎座間市生活援護課が実践する自立支援の取り組みを描いた『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課:https://www.amazon.co.jp/dp/4022518251』(朝日新聞出版)

──12月に予定されている最終報告に向けて、社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)で議論が進んでいますが、そもそも生活困窮者自立支援制度の存在が一般に知られていないという危機感が前回のお話でした。まだ会合は残っていますが、審議会の議論はどういった方向でまとまろうとしているのでしょうか。

生水裕美氏(以下、生水):今回の審議会は6月3日に始まりました。前回の社会保障審議会は5年前の平成29(2017)年なので、5年ぶりの開催になります。前回の審議会からの続きという位置付けのため、最初の6月3日が第14回で、10月31日の第22回まで9回の会議が終わりました。取りまとめは12月予定と聞いています。

 中間地点にあたる第19回では、それまでの5回の議論を受けて、「これまでの主な意見」が示されました。第20回以降は主な議題の二巡目で、論点整理し、議論を進めているところです。

 今回の審議会で私が注視している一つは、家計改善支援事業と就労準備支援事業が必須化されるかどうかという点です。

 生活困窮者自立支援制度の事業は、自立相談支援や住居確保給付金の支給業務のような、自治体が必ず実施しなければならない必須の事業と、自治体が置かれている状況に応じて任意で実施する事業に分かれています。

 その中で、家計改善支援や就労準備支援は任意事業という位置付けで、支援メニューに含めるかどうかは自治体の裁量に任されています。これらの事業を任意ではなく、必須にすべきだという声は少なくありません。

──それはなぜでしょうか。

生水:支援の現場で、困窮状態に陥った人の自立支援に不可欠だと考える人が増えているからです。

 家計改善支援は、相談者の月々の収支を専門の相談員が一緒に確認し、必要に応じてお金の使い道についてアドバイスするというものです。

 困窮状態に陥る理由は人によって様々ですが、そうなってしまった原因があります。その原因を解決せず、単に借金を整理するだけでは、再び同じ状態に陥る可能性が高い。そこで、相談者の収入と主な支出を整理し、優先順位をつけるお手伝いをする。これは、自立支援においてとても重要なプロセスだと思います。

 もう一つの就労準備支援も同じです。困窮状態に陥っている人の中には、ひきこもり状態にある人のように、長い間、就労していない人がいます。そういう方に「就労してください」と言っても、いきなり就労できるものではありません。

 就労準備は、このようなすぐに就労できない方に、就労の前段階、すなわち決まった時間に決まった場所に行くことであったり、1日2時間、3時間など短い時間を働くということであったり、コミュニケーションの取り方を学んだりと、就労に向けた準備をする支援です。

 役所に相談に来る方の中には就労準備支援が必要な方はいますから、こちらも必須化した方がいいのではないかという意見です。

 また、家計改善支援と就労準備支援の他に、住居のない生活困窮者に対して一定期間、宿泊場所や食事などを提供する一時生活支援という事業があります。こちらも現状は任意事業ですが、生活困窮者の住まいは自立支援の根幹ですから、居住支援という一つの事業として必須化すべきだという意見や、生活困窮者自立支援制度の枠組みだけでなく、住宅セーフティーネット法を所管する国土交通省とも足並みを揃えることが必要ではないかとの意見も出ています。

林:私も必須化には賛成です。

社会保障審議会の委員を務める生水(しょうず)裕美氏
神奈川県座間市生活援護課で独自の支援体制を構築した林星一氏

生水:この任意事業の必須化とは別に、生活保護制度との関係についても主要な論点に浮上しています。

──生活困窮者支援制度は、第二のセーフティネットと呼ばれており、雇用の安定を図る雇用保険と、最低限度の生活を保障する生活保護の間を補完する制度として整備されたという経緯があります。