ラストランを迎え、最終到着地の成城学園前駅に到着した小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」12月10日、ラストランを迎え、最終到着地の成城学園前駅に到着した小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」(写真:共同通信社)

 小田急電鉄の50000形VSEが完全引退を迎えた。「白いロマンスカー」として親しまれていたVSEは、2005年に“ロマンスカーの復権”を掲げてデビュー。以降、18年間にわたって小田急のフラッグシップトレインとして活躍し、その勇姿は小田急沿線住民や鉄道ファンだけでなく、箱根への旅行者からも人気を博した。

 VSEが走った18年という軌跡は一般の鉄道車両の供用年数と比べても決して長くなく、むしろ短い。華々しくデビューしたにもかかわらず、なぜVSEは通常より早く引退することになったのか? それを考察すると、小田急の懐事情のみならず、昨今の鉄道業界を取り巻く環境の変化が透けて見えてくる――。

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日本の鉄道史に残る優れた鉄道車両だった「VSE」

 2023年12月10日、小田急電鉄は同社の看板特急だった50000形VSE(=Vault Super Express)のラストランイベントを実施した。これにより、VSEは完全引退した。

 小田急がVSEの引退を発表したのは2021年12月17日だった。このときの小田急は新型コロナウイルスの感染拡大で需要を大幅に減らしており、翌年春のダイヤ改正で減便に追い込まれ、それと同時にVSEの定期運行を終了するとアナウンスした。ダイヤ改正後のVSEは臨時列車として運行され、2023年秋をメドに完全引退するというスケジュールが示されたのである。

12月10日に完全引退したVSE12月10日に完全引退したVSE(撮影:小川裕夫)

 筆者は引退発表直後に小田急広報部に取材をし、記事にしている。さらに今年8月にも広報部に対して「そろそろ事前アナウンスしていたVSEの引退時期が迫っているが、まだ正式な引退日は決まっていないのか?」と追加取材をしている。そこまで筆者がVSEにこだわったのは、VSEが小田急という枠を超えて日本の鉄道史に残る優れた鉄道車両だという認識があったからにほかならない。

 筆者の取材に対して、小田急広報部は「正式な引退日は決まっていない」と回答した。しかし、その3日後にVSEの引退日を発表。同時にVSEの特設サイトをオープンさせている。特設サイトは手の込んだデザインで、制作する準備期間を考えると筆者が問い合わせをした時点でVSEの引退日が決まっていたことは間違いない。