阿見町役場阿見町役場(筆者撮影)

 人口減少に歯止めがかからない。全国に1700以上ある市町村の約9割で人口が減少している。そんな縮小国家において3年連続人口増、ついには市制施行要件のひとつである人口5万人を達成した自治体がある。茨城県南部に位置する阿見町だ。ジャーナリストの山田稔氏が人口増加の背景、地域の実態を探った。(JBpress編集部)

「常住人口5万人達成日予想クイズ」で地元産の米を山分け

 阿見町は日本で2番目に大きい湖である霞ケ浦の南に面している。総面積は71.40km2。東京・新宿区(18.22km2)の4倍近い広さだ。自衛隊土浦駐屯地、あみプレミアム・アウトレット、阿見ゴルフクラブ、そして人気横綱だった元稀勢の里の二所ノ関親方が率いる二所ノ関部屋があることでも知られる。東京へは約60km、JR常磐線や常磐自動車道で約1時間という立地だ。

 意外なことに町内に鉄道駅はない。最寄りの常磐線荒川沖駅は隣接する土浦市にある。そんな「鉄道駅のない町」が、10月30日に人口5万人を達成したのである。11月1日時点の人口は5万14人で、これは全国の町で3番目に多い(1位は広島県府中町、2位は愛知県東浦町)。同町の人口推移をみると、令和3年以降、3年連続で増え続けている。

常磐線荒川沖駅常磐線荒川沖駅(筆者撮影)

 5万人達成の悲願達成に町は沸き返っている。町役場には「祝 常住人口5万人達成」の懸垂幕が掲げられ、千葉繁町長は「心待ちにしてくださっていた多くの町民の方々と喜びを分かち合いたいと思います。これから市制施行に向け町民の皆様と共に歩み、職員と一丸となって取り組んでまいります」とのコメントを町のフェイスブック上に発表している。

 町が実施した「常住人口5万人達成日予想クイズ」には2496件の応募があり、5名が正解。正解者には阿見町産のコシヒカリ新米5万グラム(ひとりあたり10kg)が山分けされたという。ほほ笑ましい限りだ。

 12月初旬、筆者が役場を訪れると懸垂幕を眺めて「やっと5万人か」とつぶやいている老婆がいた。「私の息子が町長と同級生でね」と切り出した女性は、「これまで何回もなりそうでならなかったからね。やっと市になれる。うれしいことだね」と感慨深そうだった。