藤野野外環境彫刻の代表作「緑のラブレター」(写真提供:相模原市)

 人口減の象徴ともいえる中山間地域(日本の国土の7割)で、異例ともいえる2年連続転入増加(社会増)となっている地区がある。政令指定都市・相模原市緑区の藤野地区である。神奈川県の最北西部に位置し、500m~1000m級の山々に囲まれ、相模湖に面した自然豊かな地に約7900人が暮らす。まちのキーワードは、戦時中の疎開画家の時代から延々と続く「アート」。移住人気の背景を探った。

2年連続で人口の社会増となった希有な町「藤野」

 藤野といってもピンとこない人が多いと思うが、中央道から見える山腹のオブジェ「緑のラブレター」の存在はご存じの方が多いのではないか。1989年に造形作家の高橋政行氏が制作したもので、自然から人に向けた愛のメッセージだ。藤野の道路沿いにはこうした野外環境彫刻が28体現存している。

 神奈川県の最北西端に位置し、相模川、相模湖、陣馬山など自然豊かな山あいのまちである藤野は、2007年に相模原市に吸収合併され、現在は相模原市緑区藤野地区となっている。

 中山間地域は全国的に少子高齢化・人口減少が進んでいるゾーンだが、藤野地区は2020年、2021年と2年連続で転入増加(社会増)となった稀有な存在。2022年までの3年間で53人の社会増となっている。もっとも、高齢化に伴い自然減が毎年増え続けているので、総人口の減少は食い止められていない。

 注目したいのは、社会増の大きな要因となっている移住者の移住理由である。

 相模原市緑区役所地域振興課の道祖英一氏と東大大学院工学系研究科都市工学専攻の瀬田史彦氏による論文『中山間地域における芸術のまちづくりが移住者の移住動機に与える影響について』(2023年)のアンケート調査によると、藤野への移住の決め手は、1.自然の豊かさ(56.5%)2.シュタイナー学園(芸術的手法による教育活動が有名=46.8%)3.芸術のまち(29.8%)の順だった。およそ3割の移住者が藤野のアートが動機になっているということだ。

 さらに興味深いのは、移住後にはアンケート回答者のほとんどが芸術のまちづくりから派生した地域コミュニティーに関わっているという事実。移住者たちの多くが、アートが根付いた地域に溶け込んでいるということである。