建築家の隈研吾氏がデザインした鍋島松濤公園トイレ(Masayuki Fuchigami/共同通信イメージズ)

 秋の行楽シーズン。週末ともなると、東京、大阪、京都、箱根、伊勢志摩など各地の人気スポットに国内外の観光客があふれかえっている。

 インバウンドは完全復活。9月の訪日客は218万人でコロナ前の水準に戻った。成田空港に到着した外国人にインタビューして追跡取材する人気番組には多彩な人物が登場し、意外な視点を紹介している。

 そうしたなかで指摘されているのが、公共空間における「おもてなし」の一環であるトイレと喫煙所の問題である。日本人にとっても訪日客にとっても欠かせない施設だが、絶対数や機能が大きな課題を抱えているのだ。その実態を検証してみた。

改修事業に力を入れてきた京都の「公衆トイレ事情」

 まず、国際的な観光地である京都のトイレ事情を見てみよう。

 京都市の公衆トイレマップには約130カ所の公衆トイレ、観光トイレの位置が表示されている。人気の嵐山・嵯峨野エリアには11カ所の公衆トイレ、4カ所の観光トイレがある。

 竹をふんだんに使った嵐山の観光トイレは純和風の造りで「インスタ映えする」と話題になっている。清水坂観光駐車場東公衆トイレのように民間企業とネーミングライツ契約をしているトイレもある。いずれも明るく、清潔で快適と好評だ。オーバーツーリズムの問題を抱える京都だが、改修事業に力を入れてきた結果、トイレ事情は先端的な水準となっている。

 一方、残念な観光地も少なくない。ある離島を訪れたときのことだ。エメラルドグリーンの海に囲まれたビーチにあった簡易トイレは和式便器で、その下には……。緊急用なのだろうが、せっかくの絶景が台無しとなる存在だった。

 離島のケースは極端かもしれないが、「古い、暗い、汚い」のイメージから脱却できていない公衆トイレがいまだに少なからず存在している。東日本の某観光地の公衆トイレに関する報告例では、建物が古めかしく一部は和式。修理中で使用不可のトイレもあるのに、混雑時でも和式は敬遠されていたという。

 インバウンド利用が想定される観光地のトイレには、温水洗浄便座導入に国交省の補助金が出るが、設置費用だけでなく維持管理コストがかかることもあり、設置が見送られているケースも見られる。

 TOTOが2018年に行った訪日外国人旅行者アンケートによると、「また訪れやすくなる」要因の2番目は「トイレが明るく、臭くない」(45.3%)で、逆に「もう訪れにくくなる」要因のトップは「トイレが薄暗く、臭い」(30.0%)だった。観光地のトイレはリピーター確保の決定的な要因になっているということだ。