防衛費増強の財源にあてられる「たばこ税」(写真はイメージ)

 防衛費をGDP比2%に拡大する増強策をぶち上げ、その財源に法人税、復興特別消費税、たばこ税の増税分をあてようとしている岸田政権の拙速で姑息なやり方に、国民はあきれ返っている。それどころか自民党内や閣僚からも異論、反論が相次ぐ異常事態となっている。当然だろう。「はじめに防衛費総額43兆円ありき」であり、すべてが唐突で、独断的となっているからだ。

 12月16日の会見で、首相は防衛費増強、安保政策大転換について、ロシア・ウクライナ情勢や日本周辺国の軍備増強などを挙げて語っていたが、大幅増額の裏付けとなる具体的な内容の説明は乏しかった。この間、5年間総額43兆円、安保関連3文書改定に伴う内容などメディアを通じて流しているが、リーダー自らが丁寧に説明するとともに、国会で徹底議論すべきである。

安保関連3文書を閣議決定し会見する岸田首相(12月16日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自民、公明両党の与党税制協議会は15日、財源確保策として法人、所得、たばこの三税の増税方針を2023年度税制改正大綱に盛り込むことで合意し、翌16日に決定したが、実施時期は明示しない玉虫色の決着となった。こんな短期間の与党内議論で既成事実化されてはたまらない。国民無視も甚だしい。

 あらためて今回上がっている3つの財源のうち、防衛費となんら関係がなさそうに見える「たばこ税」に注目してみた。岸田首相はたばこ税増税を財源とする点については、会見で「1本あたり3円」と言うばかりで、「なぜたばこ税か」の説明はまったくなかった。

たばこ税は戦費調達の「打ち出の小槌」だった

 防衛費増強の財源として、たばこ税増税が報じられた直後、業界関係者は「やっぱり出てきたか」とため息をつき、「もっとも取りやすいから狙い撃ちだね」とこぼした。どういうことか、それは歴史が証明している。たばこは戦争に巧妙に利用されてきたのだ。その象徴が明治37年(1904年)2月に宣戦布告した日露戦争である。当時の状況を振り返ってみよう。

 対露開戦は避けられないと考えていた大蔵省内では、明治36年秋から戦時財政運営を準備していた。戦費調達のための増税、公債発行などだ。時の首相は桂太郎。そして37年1月、「非常特別税法案」が閣議で決定された。

 これだけでも大増税だったが、その直後の予算編成で、さらに約7億8000万円の戦費が追加された。元老・閣僚合同会議で松方正義から「砂をかんでも戦さをせにゃならんのに、増税ができないことがあるか」とハッパをかけられ、大蔵省は第2次増税を立案する羽目となった。

 一連の増税案に伴い、大蔵省内では民間業者の反対で難航していた「たばこの製造専売による増収」案を再検討し、37年3月の議会に「煙草専売法案」を提案して成立させたのである。同年7月に施行され、たばこの製造から販売までが国の管理下に置かれた。

 その結果、37年度の「臨時事件費予算」の増収入6200万円のうち、たばこ専売収入は850万円を見込むこととなり、安定的な税収確保に成功したのである。しかも、政府が販売価格を自由に上下することで、容易に増収を図れるようになった。

 たばこ収入は「打ち出の小槌」となり、太平洋戦争終結まで続いた。軍事費が拡大していった戦時中、昭和18年(1943年)の政府一般会計の最終決算額の内訳をみると、「専売局益金」は10億6700万円。事業益金の内訳を見ると、塩としょう脳(セルロイドや火薬の製造原料)は赤字で、たばこだけで11億2500万円の益金を出している。これは一般会計140億円の8%に相当する。

 ちなみに、たばこは2016年11月、2018年1月・12月、2020年3月と、この時期に4回も値上げされている。18年1月は60%、12月は50%もの大幅値上げだった。それだけ「たばこ」が利用されたということである(『大蔵省史』『昭和財政史』などを参照)。

 防衛費増強の財源として「たばこ税」が出てきたのは、財務省からすれば歴史的に必然の策なのである。