京都を散策する訪日客(写真:共同通信社)
  • コロナ禍で落ち込んだ世界の観光客数だが、イスラム教の巡礼者が回復した中東を皮切りに、徐々に戻りつつある。
  • 2019年対比で1%まで落ち込んだ訪日客数も、同対比で75%まで回復する見込みだ。処理水海洋放出の影響は今のところ軽微なようだ。
  • コロナ禍前を下回っている中国からの観光客が上振れ余地だが、宿泊施設の人員不足など供給制約が大きく影を落とすかもしれない。

(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)

2010年代に訪日客は急速に増加

 日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、訪日客数は2000年代後半に年間700万人前後で推移していたが、2010年代に入ると急速に増加した。

 2013年には年間で1000万人台を突破。2015年には1900万人台となり、年間1600万人台で推移していた出国日本人数を超えた。2016年には2000万人台、2018年には3000万人台を突破している。

 訪日客数が急速に増加した背景としては、アジア諸国の経済成長、アベノミクス後の円安進行、ビザ免除など日本への入国規制の緩和、格安航空会社(LCC)の就航便数増など複合的な要因が挙げられるが、根本的には、アジア諸国の経済成長の影響が大きいだろう。

 世界全体の国際観光客数をみると、2000年代は欧州を中心に増加したが、2010年代の増加はアジアが中心だ。アジア諸国の経済成長と所得水準向上により、近隣であるアジアの観光地への旅行需要が拡大したのだ。

 事実、2010年代の10年間で、日本のみならず、タイ、中国、香港、マカオ、インドなどへの観光客が大きく増加している。


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 訪日客数は、2019年には年間で3188万人の過去最高水準を記録した。1カ月当たり平均では266万人の高水準だ。

 だが、2020年春に訪日客数は急減。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの国・地域で海外渡航制限や自宅待機等の措置が講じられ、同時に日本が入国制限を強化した影響が表れた。

 2021年には年間で24万5000人にとどまり、2019年対比で1%に満たない水準まで落ち込んだ。

 ただ、日本政府は2022年秋以降に出入国制限を緩和。2023年4月下旬には水際対策を終了したため、訪日客数は急速に回復している。2023年7月には232万人となり、コロナ禍以降の最大値を記録した。

 今月発表された8月の訪日客数は215万6000人で、7月から減少したものの、これは季節性によるものだ。

 例年、訪日客数は夏季休暇が始まる7月に1年で最も多くなりやすく、8月にいったん減るという季節性があり、今年もその影響が表れている。訪日客数は順調に回復しているとみていいだろう。

 コロナ禍前と比べてどの程度回復したかを確認するため、2019年の同月対比の水準をみると、今年3月から5月にかけては60%台後半で推移した後、6月に72%、7月に78%、8月に86%へと切り上がっている。


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