米FRB(連邦準備制度理事会)の政策動向に市場が一喜一憂し、米国経済をめぐる議論も活発だ。しかし、実体経済はFRBの読みや狙いどおりに動いていない。日本銀行も異次元緩和は成功しないまま、困難な後始末を求められている。
大和証券チーフエコノミストの末廣徹氏は「量的緩和の長期化とモラルハザードで、先進国では金融政策が効かなくなっている」「価値観が変わる今、もっと重要なことを議論すべき」「世界は停滞とディスインフレに戻る」と指摘する。8月24日に米国で開催されるジャクソンホール会議を前に、金融政策について考える。(聞き手、大崎 明子:ジャーナリスト)
金融政策は利下げ、利上げとも効かなくなっている
──金融市場は米FRBの利上げ回数や利下げ転換の時期などをめぐって一喜一憂しています。FRBがインフレ制御に成功し、景気後退を免れそうだと、もてはやす向きもあります。ですが、FRBの狙いどおりなら、本来、雇用が犠牲になり景気も悪化するはずです。
末廣徹氏(以下、末廣):金融政策が効かなくなっているということだと思います。足元ではようやくインフレは鈍化してきたけれども、それはコモディティ価格の下落とかサプライチェーンの改善とか別の理由で下がってきたのであって、中央銀行としては、なんだかばつの悪い状態になっています。
中央銀行は「自然利子率」を基準にして金融政策を決めるわけですが、この自然利子率が一時的に上がっているために効果が出ないのではないか、とFRBは言い出しています。8月24日からのジャクソンホール会議でもこの議論が出ると思います。
自然利子率の推計結果には幅があり正確にはわからない。そこから、そもそも金融政策はそんなにパワーを持っていない、金融政策に依存しすぎるのをやめようという話になるのが、望ましいと私は思っています。
日本銀行の植田和男総裁も、中央銀行は万能ではなく、実質賃金を上げるために政府が成長戦略を実行するほうが重要だという考え方だと思います。
※自然利子率:マクロで投資と貯蓄をバランスさせる実質金利、政策金利がこれを超えれば引き締め効果が出るし、下回れば緩和的になる。
──金融政策が効かなくなっている理由は何でしょうか。