住宅建設が急速に進んだ中国だが……(写真:ロイター/アフロ)

 8月1日、フィッチ・レーティングスが米国債の格付けをAAAからAA+に格下げした。経済の好調を背景に上昇していた米国の株価に、冷や水を浴びせた格好だ。一方で、中国経済はゼロコロナ政策をやめた後も低迷し、デフレ化・日本化が取り沙汰されている。

 クレジット市場の専門家で、世界のマネーの動きをウォッチしているみずほ証券の大橋英敏氏に、米国、中国、日本を長期的な視点でどう見るか、話を聞いた。(大崎 明子:ジャーナリスト)

AAAとAA+の実質的な差はほとんどない

──コロナ禍への対策として大規模な財政拡張を実施した米国。今年5月には債務上限問題への対応を巡って民主党と共和党の対立が先鋭化したこともあり、フィッチが格下げに踏み切り、金利が上昇して(債券価格は下落)、株価が下がりました。金融市場への影響は残るのでしょうか。

大橋英敏氏(以下:大橋):格下げ自体は予想されていました。債務の対GDP(国内総生産)比が上昇したうえに、債務上限問題によって市場の緊張が高まったこともあって、格付け会社がお灸を据えたという側面があります。

 2011年にS&Pが格下げしたときには逆に金利が下がって(債券価格は上昇)、株価が下がり、これが数カ月程度続きましたが、結局、大した話ではないということになりました。

 今回は、同時期に米国債の発行計画が出てきたこともあって、マスコミ主導で市場心理が動揺した。ただし、ドルは他の通貨に対して上昇しており、ドルへの不安が出ているというわけでもありません。

 コロナ対策による財政出動で米国の債務の対GDP比が上昇したことは事実ですが、財政出動の効果もあってGDPも増えており、債務の対GDP比の上昇は鈍化する方向です。

 もちろん、コロナ前の水準には戻っていないし、基調として債務比率の上昇が続けば、格付け機関のネガティブな反応は今後も起こりうる。そうした歯止めがない日本などよりはマシだとの評価もある一方で、債務上限の引き上げが続いていることを懸念する見方もあります。

 それでも、専門的な話をすれば、AAA格とAA+では信用力評価上はほとんど差がありません。AA+へのワンノッチの引き下げは象徴的な意味しかなく、実際の金融取引には影響がない。それに、大半の人はフィッチよりもムーディーズやS&Pを見ています。

 ドルについては基軸通貨であることが大きく、皆、決済上、ドルを持たないわけにはいきません。それでは、なぜ基軸通貨なのかといえば、背景にあるのは国力。国力とは、経済力とか人口が多い、資源が豊富、技術力がある、軍事力がある、金融も強い──といったすべての実力です。

 米国は1990年代に製造業で日本に負けた局面もありましたが、政治力を駆使して叩き、その一方で他の産業をおこしてきた。インターネットがそれで、プラットフォーマーが育ってきました。

 米国は常に、新しい技術の一角を占めており、例えば、コロナワクチンもすぐに開発できた。こういうものが国力のわかりやすい例です。

 中国が人民元による決済をアジア・新興国で広げているという話はありますが、中国自体がさまざまな問題を抱えていることもあり、ドルを脅かすような話ではまったくなく、ドル基軸通貨制は盤石です。ロシアのウクライナ侵攻で、よけいに米国の独り勝ちは強まっています。