- 名目ベースでは好調に見える個人消費だが、物価の影響を除いた実質ベースで見ると、個人消費は緩やかな伸びにとどまっている。
- コロナの「5類」移行後、経済の正常化に伴って個人消費は回復傾向を辿ったが、2023年度前半は経済正常化よりも物価高騰の影響が出た格好だ。
- 所得税減税で個人消費は改善するが、あくまでも一時的な効果に過ぎない。可処分所得や個人消費の継続的な増加には実質賃金の上昇が不可欠である。
(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
【個人消費が予想外に低調】
<名目ベースでは上向きも、実質ベースで低迷>
個人消費は、物価の影響を受ける名目ベースでみれば好調なようにみえる。
GDP統計の家計最終消費支出は、2023年1~3月期に年率換算の季節調整値で310.5兆円と過去最大に達した。かつて最大だったのは、10%への消費増税直前の2019年7~9月期に記録した300.9兆円だったが、2022年7~9月期以降、その数字を超えている。2023年4~6月期に309.0兆円へ減少したものの、7~9月期に310.3兆円へ増加、過去最大に迫っている。
だが、名目ベースの個人消費拡大は物価高騰の影響が大きい。物価変動の影響を調整した実質ベースでみれば、個人消費は相対的に緩やかな伸びにとどまっている。物価高騰により支出額が膨らむ一方で、実際の購入量は抑えられている状況と言える。
<消費増税前対比でみた実質消費の推移>
では、実質ベースの家計最終消費支出は近年どのように変動してきたであろうか。以下、10%への消費増税前の2019年7~9月期を100%として、実質消費の水準の推移を振り返ってみる。
個人消費は、2019年10~12月期に消費増税の影響で96.5%へ縮小。2020年4~6月期には、新型コロナウイルス感染拡大に対応して緊急事態宣言が発動された影響で、88.5%まで落ち込んだ。
その後、個人消費は経済活動正常化を背景に徐々に回復。2023年1~3月期に97.2%と増税直後・コロナ禍前の水準を超えた。
だが、2023年度に入り個人消費は低迷、4~6月期と7~9月期に96.3%へ縮小した。実質ベースの個人消費は、増税直後・コロナ禍前と同程度で一進一退だが、増税前回帰にはまだ距離がある。