暴動で壊されたニューヨーク・5番街のショーウィンドウ(写真:Evan Agostini/Invision/AP/アフロ)
  • 英警察がAIを用いた顔認識技術の利用を進めるよう指示するなど、行政機関によるAIの活用が加速している。
  • だが、顔認識AIや犯罪発生予測AIの精度はまだ低く、誤認逮捕などのリスクが指摘されている。
  • AIに対する規制強化の動きも始まっているが、AI技術が高度化し、社会の隅々に普及するなか、監視がどこまで可能かという疑問の声も上がっている。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

「警察AI」に対する不安

 総務省の令和5年版情報通信白書によれば、世界のAI市場規模は、2028年までに1兆ドル(約150兆円)を突破すると見込まれているそうだ。2021年度の同市場規模は960億ドル(約14.4兆円)とされているので、2020年代が終わるのを待つことなく、10年足らずで10倍以上に成長するということになる。

令和5年版情報通信白書

 まさにいまはAIブームと呼べる状況で、毎日のようにさまざまな業界・業態の企業や組織がAI導入を発表している。

 それは行政機関においても例外ではない。

 たとえば今年10月、英国の犯罪・警察・消防担当閣外大臣を務めるクリス・フィルプは、英警察内での顔認識技術利用を現在の倍に増やすよう指示した。そのプレスリリースによれば、達成目標は2024年5月とされており、約半年で倍増させるという意欲的な計画だ。

 とはいえ犯罪の数が急に増えるわけでもないので、過去の事件にさかのぼって活用するのも含めるとされている。

Police urged to double AI-enabled facial recognition searches(英警察のプレスリリース)

 市民の不安感に先手を打つためか、同プレスリリースでは、英警察が使用する顔認識技術の精度についても言及されており、英国の国立物理学研究所による調査結果が引用されている。

 それによると、静止画像を使用した場合、精度は実に100%に達したそうだ。ライブ動画に対して使用した場合も、誤認識が発生したのは6000件に1回(約0.017%)とのこと。

 また、顔認識技術は人種等によって精度に差が出ることが知られているが(たとえば白人と比較して黒人の誤認率が高いなど)、この調査においては、性別や民族の間で精度に統計的に有意な差は見られなかったそうである。

「6000件に1回のミス」を多いと捉えるか、許容範囲と捉えるかは微妙なところだが、少なくとも利用回数が増えればミスの数が増えるのも確実だ。英市民にとってみれば、顔認識技術の使用は慎重に進め、誤認逮捕の場合に備えて何らかの異議申し立てプロセスを整備しておいてもらいたいところだろう。

 実際に米国では、顔認識技術が原因となったと見られる誤認逮捕が相次ぎ、この技術に対する疑念が広がっている。