機関銃を構えるハマスの兵士(写真:ロイター/アフロ)
  • アメリカで人気のメッセージアプリ「WhatsApp」のある機能が物議を醸している。LINEスタンプのようにユーザー同士でやり取りする画像の自動生成機能がそれだ。
  • キーワードを入れるとそれにあったデフォルメ画像を生成してくれる機能だが、「パレスチナのイスラム少年」というキーワードを入れたところ、生成されたのはAK-47自動小銃を持った少年だった。
  • 「パレスチナ人」として公開された画像の中には自動小銃を構えた人物がおり、それが一定数、学習データに含まれていたからだと思われるが、これは偏見の再生産にほかならない。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

生成AI時代の戦争

 2023年10月に始まった、パレスチナのイスラム組織「ハマス」とイスラエルの間の武力衝突。ウィキペディア上では「2023年パレスチナ・イスラエル戦争」と呼称されているが、まさに「戦争」と呼べるような様相を呈しており、次第に犠牲者の数が増している。まずは、何より1日も早い停戦と平和の回復を祈りたい。

 本連載でも取り上げたように、生成AIの登場により文章や画像、動画といったコンテンツが誰でも簡単に作成できるようになったことで、オンライン情報の信頼性は大きく揺らいでいる。

 フェイク画像が拡散したり、あるいは本当に起きた出来事を撮影した映像を「フェイク」認定したりすることで、何が事実かを見極めるのが非常に困難になっているのだ。

【参考記事】
◎映像に証拠能力はなくなる?生成AIの登場で困難になる「事実」の把握

 プロパガンダ活動そのものも活発に行われている。

 11月3日のニューヨークタイムズ紙の報道によれば、今回のパレスチナ・イスラエル戦争の発生から24時間の間に、Facebook、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)上でこの件について投稿したアカウントのうち、およそ4つに1つが偽物であると判明したそうである。

【参考記事】
In a Worldwide War of Words, Russia, China and Iran Back Hamas(New York Times)

 また10月17日、パレスチナのアル・アハリ・アラブ病院で爆発が起き、多数の民間人死傷者が出る事件(アル・アハリ病院爆破事件)が起きているが、爆発から24時間の間にX上でこの件について投稿したアカウントのうち、3つに1つ以上が偽物だったそうだ。

 それ以外に、研究者たちは国家が関与すると見られる、大規模なプロパガンダ・キャンペーンの存在を6件も確認している。

 こうしたプロパガンダは、もちろん明確な意図をもって行われるものだ。支持するのがどちら側であれ、味方のイメージを高める(あるいは敵対勢力のイメージを悪くする)ことで、武力行使が正当であると印象づけるわけである。

 しかしいま、意外な形で、また意図せぬ形で生成AIがこの紛争に影響を与えようとしている。それはお絵描きAIが生成するメッセージアプリ用の「スタンプ」だ。