東京・霞が関の国税庁。脱税摘発にもAIが用いられる時代に(写真:共同通信社)
  • 日本の国税庁に相当する米IRSが脱税摘発を高度化させるためAIを活用すると発表した。
  • 対象は富裕層、時にヘッジファンドやプライベートエクイティなど、税逃れの複雑なスキームを組むことのできる組織や機関だ。
  • 既にフランスでは申告漏れの「隠れプール」の摘発で成果を上げている。AIマルサと脱税AIのいたちごっこはこれから本格化する。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

「マルサ」もAIが奪う仕事に?

 今から40年近く前の1987年、日本で「マルサの女」という映画が公開された。監督・脚本は伊丹十三で、主演は彼の妻である宮本信子。タイトルにある「マルサ」とは、国税局査察部の査察官を指す通称で、この査察官となった主人公の活躍を描くという内容だった。

 映画は大ヒットし、翌年には続編となる『マルサの女2』が制作されている。

映画のイメージづくりのため、国税庁で係官の説明を聞く伊丹十三監督(写真:共同通信社)

 映画はまさに頭脳戦といったところで、脱税する側と、それを暴こうとするマルサ側の丁々発止のやり取りが描かれている。さまざまな専門知識と、ひらめきや直観力、そして悪人たちとのコミュニケーションを通じて真相に迫ろうとする査察官たちの姿は、プロフェッショナルと呼ぶにふさわしいものだった。

 しかし、これも時代と言うべきだろうか。さまざまな職業において、「AIに仕事を奪われるのではないか」という懸念が生まれているが、マルサもその仲間入りをしそうだ。

 日本の国税庁に相当する米国の行政機関IRS(米内国歳入庁)が、脱税摘発の高度化のため、AIを活用することを発表したのである。

 IRSは9月8日(現地時間)に公表されたプレスリリースの中で、今後の方針のひとつとして、AIなどの先端技術を活用し「租税回避のための巧妙なスキームを特定すること」を目指すとしている。

IRSのプレスリリース

 要はAIに脱税を摘発させますよという宣言で、マルサのような査察官がいらなくなるわけではないが、彼らの仕事を大きく助けることになるだろう。当面のターゲットとなるのは富裕層で、平均的な納税者については、負担軽減を進めるとしている。

 具体的にはどのようなAI活用を考えているのか。