AIによる脱税摘発の対象はこの人々

 米ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、富裕層の中でも特に取り締まりの対象となっているのが、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・グループ(非上場企業の株式や資産を購入、保有、売却することを目的とした投資を行う企業や投資ファンド)、不動産投資家、大手法律事務所などの組織や機関。これらの組織はその組織力や専門知識を駆使して、税金を逃れるための複雑なスキームを組むことができるからだ。

I.R.S. Deploys Artificial Intelligence to Catch Tax Evasion

 IRSのダニエル・ワーフェル長官は、そうした脱税行為は「IRSのチームにとっても複雑なもの」であり、「私たちはこの分野で本当に何年も圧倒されてきた」とコメントしている。

 しかしAIであれば、そうした手の込んだ策略も検知できる可能性がある。

 ワーフェル長官は、事前の研究からAIが脱税行為のパターンや傾向の特定に役立ち、大規模な組織による所得隠しを発見できるという確信を得ていると説明したそうだ。それを基に、IRSはこれまで取り組めなかったような、大規模な摘発に踏み切れるだろう。

 実際に、IRSは前述のプレスリリースの中で、AIによって脱税の疑いありと認識された75社について、9月末までに調査を開始するとしている。対象となる75社は、いずれも平均資産100億ドル以上という巨大組織とのこと。それだけに摘発が成功すれば、追徴課税で得られる税収は莫大なものになる。手間暇をかけてAI開発する元は十分に取れるはずだ。

 とはいえ、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、この計画には「納税者のデータをどこまで信用できるのか」との批判も出ているそうである。

 IRSはマルサAIを機械学習に基づいて開発するとしているが、これは過去のデータをAIに学習させ、そこから一定のパターン(今回で言えば脱税が疑われる兆候)を把握するという技術だ。

 したがって、AIに与えるデータが十分な量・十分な内容でなければ効果的な監査が行われることは期待できない。逆に特定の集団や組織に対して、不利益を与えるような結論を出すAIが誕生してしまう場合もある。

 現に、米国ではAIの学習が不適切な形で行われていたために、公的機関で導入されたAIが特定の人種に不利益を与えるケースが続出している。