「隠れプール」の摘発にAIを使うフランス
たとえば、今年8月にAIによる顔認識で誤認逮捕された妊娠8か月の黒人女性がデトロイト市を訴えた。デトロイト市警察が強盗犯の捜査をしていた際、監視カメラに残されていた映像をAI顔認識アプリケーションにかけたところ、誤ってこの女性が特定されてしまったのである。
実は、顔認識AIについては、学習に使用されるデータに人種・性別的な偏りがあることから、白人や男性の方が正確に認識されやすい傾向があることが確認されている。誤認逮捕された黒人女性はその後「証拠不十分」として不起訴処分になったが、お腹に赤ちゃんがいる状態での逮捕は相当なストレスだっただろう。
同じような間違いや、追及の対象となる組織の偏り(特定の人種や政治思想を持つ人物が経営している団体がやり玉にあがりやすい等)が生じる可能性はないのか。マルサAIに期待がかかる一方で、その慎重な導入と検証を求める声も高まっている。
脱税摘発にAIを利用しようとしているのは、IRSだけではない。フランスでは、AIに航空写真を分析させ、申告逃れしている固定資産を発見しようというユニークなアイデアが登場している。
これはコンサルティング会社CapgeminiとGoogleが、DGFiP(仏公共財政総局、IRS同様に日本の国税庁に相当する組織)とともに進めているものだ。
彼らが開発した「Foncier Innovant」と呼ばれるシステムは、AIが航空写真を分析し、その中に写っている住宅を把握。さらにその住宅にプール(固定資産税の対象となる)が設置されているかどうかを自動で判別する。その結果を税務関係のデータベースと照合することで、申告漏れのプールを発見できるようになっている。

日本人からすると、自宅にプールを設置するというのはあまり馴染みのない話のため、AIを使うことにどれほどの効果があるのだろうと思うかもしれない。しかし公式発表によれば、2022年に行われた実証実験の結果、対象となったフランス国内の9つの県合計で、固定資産税の対象となりながら届け出がされていなかったプールを約2万面も確認できたそうだ。
これらの「隠れプール」から得られる追加の税収入は、およそ1000万ユーロ(約16億円)に達すると見込まれている。
ちなみに、このプロジェクトの総費用は、2021年から2023年までの期間で2400万ユーロ。前述の実証実験から得られた結果に基づいて、マルサAIの導入による直接的な利益は、2023年までに4000万ユーロに達すると見込まれている。
さらに、新たに「発見」されたプールから得られる固定資産税は、毎年徴収されて税収となる。それを考えれば、このAI導入は十分に元の取れる取り組みと言えるだろう。
税制の分野では、他にももうひとつ、興味深いAIの活用法が登場している。それは法の「抜け穴」をAIに探させる、というものだ。