人間の仕事はすべてAIに置き換えられてしまうのか?

AIによるセンセーションと実態が乖離している要因

 いまや、AI(人工知能)に関するニュースを見ない日はありません。直近では2022年に「ChatGPT」が公開されたのを皮切りに、文章や画像、音声など高水準のコンテンツを作り出すさまざまな生成AIが登場してビジネスシーンがザワつき続けています。

 そんなAIブームのような現象は、過去にも何度も見られたことです。ただ、これまではSF的で現実との距離を感じていましたが、カール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏が2013年に論文『雇用の未来』を発表して以降は、人間が携わる仕事にAIが直接影響を及ぼす身近なテクノロジーだと感じられるようになった印象があります。

『雇用の未来』は、アメリカにおける雇用の47%がAIなどのシステムに代替されるリスクが高いと論じ、2015年には両氏と野村総合研究所が共同研究を行って、日本においても約49%の雇用が10~20年後に代替される可能性を指摘しました。

 ところが『雇用の未来』から10年が経ったいま、コロナ禍が原因で一時的に雇用が落ち込んだりはしたものの、AIの台頭によって半分近い雇用が失われるようなドラスティックな事態は起きていません。

 では、『雇用の未来』の指摘は、かつて1999年7の月に人類が滅亡すると人々を信じさせた“ノストラダムスの大予言”のAI版に過ぎないのでしょうか。

「AIが雇用を奪う」と世界中で巻き起こったセンセーションと実態が乖離している背景には、少なくとも2つの決定的な要因があります。

 まず1つは、AIやシステムによって代替可能な仕事は、基本的に「料理を運ぶ」とか「食器を洗う」といったシングルタスクでしかないことです。それに対し人間は一人で料理を運び、レジで会計し、食器を片づけ、テーブルを拭き、食器を洗うなど、マルチタスクをこなすことができます。

 ただ、タスク単位ではすでに多くの仕事がAIやシステムに置き換わっています。例えば、以下のようなものです。

・採用の書類選考や一次面接などをAIが行う(人事職)
・契約書の修正箇所を洗い出す(法務職)
・画像認識技術により、製造物の細かいキズなどを発見する(技能職)
・スーパーなどで買い物する際、セルフレジで会計する(販売職)
・顧客からの質問にチャットで返信する(カスタマーサポート職)

 しかし、これらは人間がこなしてきたタスクの一部であり、業務量を減らしたり生産性を高める効果はあっても、現時点のテクノロジーでは人間がこなしてきたすべてのタスクを置き換えるまでには至りません。