データ入力の仕事はAIに代替されない?(写真:アフロ)

 米オープンAIが開発した生成AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の能力と汎用性の高さに、大企業の経営者や研究者が舌を巻いている。さらなる研究開発が進めば、仕事のあり方が大きく変化するだけでなく、今の仕事の多くがAIに代替されると言われている。

「AIでなくなる仕事」と指摘されている各業界の「中の人」たちへのインタビューを通じて、人類とAIの共生を考える連載「直撃!その仕事、AIでなくなる?」。第2回は、「データ入力」を生業とする企業で組織する日本データ・エンジニアリング協会会長の河野純氏に話を聞いた。

 データ入力は、紙やデジタルで記載された数値や氏名などのデータを特定のフォーマットに従って入力する仕事だ。AIは特定のルールを学習させると、人間よりも遥かに正確に速くデータを入力する能力があるとされる。データ入力の仕事はAIでなくなるのか。

(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)

第1回:ChatGPTでコールセンター消滅?協会会長「文字での対話は敗北、音声なら…」
第2回:チャットGPTでデータ入力業界は消滅?協会会長「知ったかぶりAIに頼れない」
第3回:チャットGPTでコピーライター消滅?元電通マン「天然キャラは発想のヒント」
第4回:チャットGPTで秘書消滅?メール代筆は完敗でも「社長夫人の機嫌は取れない」

「紙」のデータを正確に認識できない

——単刀直入に質問します。ChatGPTの登場により、データ入力の仕事はなくなりますか?

河野純氏(以下、敬称略):我々「データ入力」の職業的な領域と、ChatGPTをはじめとした生成AIが仕事に応用される分野は、あまり重ならないかな、というのが正直な感想です。

——ただ、世間では「ChatGPTでデータ入力の仕事はなくなる」との声もあります。

河野:それは「データ入力」がどんな仕事か、正しく伝わっていないことが原因だと思います。まず、データ入力がどんな仕事か説明したいと思います。

日本データ・エンジニアリング協会会長/電算社長の河野純氏

 データ入力とは、例えば、住所や氏名などのデータや、伝票に記載された金額、マイナンバーカードの個人番号、大学入試のデータ、医師資格証のデータなどを「ミスなく」打ち込み、特定のフォーマットに沿ってクライアントに提出する仕事です。

 活字になっている情報なら全て、レシートや伝票など紙であれインターネット上の情報であれ、入力します。我々の仕事は、現実に起きていることを「データとして起こす」ところにあります。

 ChatGPTをはじめとした生成AIがデータ入力の仕事を奪うのではと思われている最大の理由は、それが「(入力者が)的確な指示をすれば、データを適切な形で分類・分析してくれる」点にあるのでしょう。それは全く間違いでありませんし、その点は優れています。

 しかし、ここで問題になるのは「ベースになるデータを、誰がつくるのか」という点です。まず、ChatGPTは「紙」に書かれた氏名や金額などのデータを入力することはできません。事実、今でも日本では手書きの重要なデータがたくさん存在しています。そうしたデータを誰かがまとめないと、ChatGPTもそれを「情報」として処理できません。

 また、リアルタイムに現実社会で起きた出来事をデータとして残すこともできません。ChatGPTは過去のインターネット上のログからデータを引用しているからです。最近ではワクチンの接種履歴など、我々はしばしば、時間がない中で、リアルタイムにデータを入力するという仕事に従事しているのです。

 つまり(1)紙に書かれたデータを読み込むことができない、(2)リアルタイムのデータを入力できない、という2つの理由から、ChatGPTがいますぐデータ入力の仕事に取って代わることはまずありませんし、とても任せられない、というのが現状です。

 なぜ、世間ではChatGPTに代替される、と言われているのか、本当に分からないのですよ(笑)。そもそもこの仕事は、生成AIが得意としている領域とはあまり関係ないかなと思います。