AIによる効率化vs正確な手入力
——「データ入力」に関しては、人間がAIに圧勝している、ということですね。それはなぜでしょう。
河野:人間は、分からないことを「聞く」ことができるからではないでしょうか。例えば、伝票に記載されている「1」という数字が、「7」かもしれない、と悩むとします。人間は「これは1ですか、それとも7ですか」とクライアントに直接聞くことができるでしょう。単純ですが、相手に聞くことで間違いを訂正することができます。
一方のAIは、勝手に「7」と想定してデータを打ち込んだり、はなから諦めて「エラー」と表示したりと、「分からない」と認め、改善することができません。AIが「7」と想定していた値が、実は「1」であった可能性は大いにあります。そのまま仕事を任せてしまうと、大事故になってしまうでしょう。
「AI-OCR」をはじめとしたスキャナーは確かに、人間よりも速くデータを入力できるのですが、エラー率が1%、良くても0.1%と高く出てしまうのが問題です。スキャナーを開発する各社も技術革新にあくせくしているのですが、どうしても手書きのデータを正しく読み取ることは現段階では難しいようです。プロの人間のエラー率が10万分の1から、100万分の1であることを考えると、その差は歴然としています。
例えば、大学入試のデータなど、絶対に間違えられない仕事では、データを4人の人間が別々に打ち込み、6回ほど繰り返し確認することで、ミスを極限まで減らしています。このような性質の仕事においては、いまだにAIに仕事を任せることはできない、というのが正直なところです。
実際、データ入力を生業とする大手企業も、まだ手入力が業務の大半を占めています。「絶対に間違えない」ことがこの仕事の目的であり、価値でもあるわけですから。現時点では、機械よりも人間がやったほうがかえって仕事もスムーズに進むのです。
——ただ、例えばAI-OCRを活用して、最終的なデータのチェックは人間が行う、という導入の仕方もあるのではないでしょうか。
河野:その点も、先ほどの「1」と「7」の話で、結局、機械は知ったかぶりをする、というのが最大の問題点なんです。というのは、活字を読み取るスキャナには「閾値(しきい値)」というパラメーターがあって、「(AIが学習している“7”というデータに)7割一致していたら、『7』とみなす」というような設定ができるのですが、7割一致に設定すると、「1」を「7」と読み違えているかはっきりしないのです。
データ入力は、通常、膨大な量のデータを入力しますから、誤読している地点を探すのに大変苦労してしまいます。結局は、人間が最初から手入力した方が、現時点では早い仕事が多いのです。
逆に「9割一致」のように厳しく設定すると、「読み取れない」というエラーが多発してしまいます。こうなってしまうと、結局同じように、データを人間が全件確認しなければならなくなるので、機械に任せた意味がなくなります。
効率化とミスを無くすことを両立できるか、という問題はこの業界でも永遠のテーマになっていて、結局、今のところは、機械を入れるか、何重ものチェック体制を築いて人間でやるか、仕事の性質によって分けていく、というように考えるのが良いのかなと思います。
アンケートにおけるデータ入力のような仕事においては、1%程度の間違いは許容しても良いのかもしれませんが、保険証の番号を間違えて入力すると大変なことになりますよね。