バッテリー式電気自動車(BEV)の三菱自動車「eKクロスEV」(筆者撮影)

 日産自動車─三菱自動車連合が販売する軽自動車規格のバッテリー式電気自動車(BEV)「サクラ」/「eKクロスEV」が好調だ。両モデルの合計生産台数は2022年6月の発売後約1年で5万台を突破。初動は大成功と言っていいだろう。だが、バッテリーの総容量が小さいだけに、充電スポットや航続距離に不安を抱えている人もいるだろう。では、実際に軽BEVはどのくらい走れるのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がeKクロスEVで長距離試乗を行い、その走行データを交えながら検証した。(JBpress編集部)

道路環境、気温によっても変わる航続距離

 サクラ、eKクロスEVの登場で身近な乗り物になった軽BEVだが、必ずしも万能選手というわけではない。バッテリー総容量が20kWhと小さく、満充電時の走行距離は公称値で180kmどまり。バッテリーの定格電流が小さいことは急速充電の受け入れ能力の点でも不利に働く。あくまで自宅や職場などで普通充電ができ、遠出はしない、あるいは家にクルマが複数あるというユーザー専用という印象だ。

 そこで気になるのは、軽BEVは実際にはどのくらい使えるのかということ。家で充電でき、近所を走り回るくらいなら何の問題もないことは性能的に保証されているのだが、たまにはちょっと遠くに遊びに行きたくなることもあるだろうし、地方部では県庁所在地との往復といったロングラン需要もある。

 筆者は2022年12月から寒冷期、極寒の豪雪地帯、一転して穏やかな温暖期と3回、eKクロスEVで長距離試乗を行った。合計5760kmで得られた走行データを交えつつ、実際のところをお届けしたいと思う。

eKクロスEVは車体右側後方に充電リッドがある。上が普通充電、下が急速充電のソケット(筆者撮影)

 軽自動車に限らずBEVはカタログスペックに1充電あたりの走行距離が記載されているが、ほとんどはまったくアテにならず、実際に走れる距離は公称値よりはるかに短いのが普通だ。

 eKクロスEVの場合、急速充電器に表示された投入電力量から計算した0─100%の投入量は平均するとおおむね16.5~17kWhといったところだった。充電時には1割程度のエネルギーロスがあるので、電池パックの実容量は概算で15~15.5kWhくらいと考えられる。

「え、eKクロスEVのバッテリー容量は20kWhじゃないの?」と思われるかもしれないが、蓄電池の世界では安全性や耐久性などの観点から、総容量の100%を使わないのは普通のことだ。

 商用車分野ではいすゞ自動車のBEVトラック「エルフEV」のように「usable」、すなわち実際に使える範囲を総容量として申告するケースもみられるが、顧客がカタログスペックを重視する乗用車分野ではそういう動向はほとんどみられない。こうして実際に使って計算してみないと本当のところはわからないのだ。

 この実容量に1kWhあたり何km走れるかという電力量消費率をかければどのくらい走れるかを算出できる。

 eKクロスEVの電力量消費率はちょっと堅めにみて、真冬においては郊外路、市街地とも8km/kWh前後。豪雪地帯の積雪路が5.5km/kWh、温暖期の郊外路が10~11km/kWh、市街地9km/kWh、高速8km/kWh前後といったイメージ。たとえば温暖期に市街地半分、郊外路半分で走ったとすると、航続距離は140~150km、冬は120~130kmという計算になる。

氷点下12度の中で充電中。リチウムイオン電池は氷点下30度くらいまでは機能するので問題はなく、投入された電力量も温暖期とそれほど変わらなかった(筆者撮影)
厳寒期は航続距離が大幅に短くなるため、電池の小さな軽BEVは注意が必要。サクラ/eKクロスEVの場合、100%充電で10%まで使うとして100km、スタッドレスタイヤ装備で90km、圧雪路では70km程度走れる(筆者撮影)

 ただし、実際にBEVを運用するときに忘れてはならない点がひとつある。充電率0%まで攻めるような使い方はまずしないということだ。

 eKクロスEVの場合、充電残警告灯が充電率20%を切るくらいのところで点灯する。稼働している充電器が確実にあるという確信があっても使えるのは残り10%くらいまで。安心して走れる距離は前記の数値から1~2割引いた数字になる。

 ちなみに筆者のドライブにおける無充電での最長走破区間は鹿児島市~熊本・八代の146.0kmで、充電率は出発時100%、到着時9%であった。