三菱自動車「eKクロスEV」のフロントビュー(筆者撮影)

 日産自動車「サクラ」、三菱自動車「eKクロスEV」の登場によって身近な乗り物になった軽自動車規格のバッテリー式電気自動車(BEV)。だが、時間あたりの充電電力量が少ない“ミニBEV”だけに、走行コストの問題は気にかかるところだろう。果たして軽EVはお得なのか損なのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がeKクロスEVで長距離試乗を行い、その走行データを交えながら検証した。(JBpress編集部)

*【前編】『軽BEVは実際どのくらい走れるのか、三菱「eKクロスEV」の長距離試乗で検証』を読む

燃費のいいガソリン車と比べた軽BEVの走行コスト

 BEVは値段は高いが走るコストは普通のクルマより安い──というのがこれまでのイメージだった。自宅で充電するのであれば、電気料金が上がった今でもおおむねその通りであるが、出先での充電についてはその構図が突如崩れた。

 今年3月末、日本最大の充電ネットワークの元締めである電力業界主導のイーモビリティパワー(以下eMP)社が急速充電、普通充電の双方について大幅値上げすると発表したのだ。

 エネルギー高騰を値上げの理由としているが、上げ幅はそれだけでは説明がつかないくらい大きい。eMP社は充電スポットを設置している事業者に提携料という名目でお金を支払っているが、エンドユーザーへの値上げと同時にその提携料の引き上げも発表している。

 日本では急速充電器の設置、運用に費用がかかりすぎるため赤字にならざるを得ず、分配を手厚くしないと充電スポットの廃止が続出してインフラが崩壊しかねないという局面にある。その困難な状況を乗り切るための苦肉の策と言ったほうがいいかもしれない。

 だが、ユーザーにとっては1kWhあたりの電気代がすべて。普通充電であろうと急速充電であろうと、ガソリン車より高くなるようならそもそもBEVに乗る意味がない。

 今年7月以降の普通充電の料金は、会員が3.85円/分、1時間あたりに直すと231円。このほかに急速、普通充電の両方を使う会員の場合で4180円、普通充電のみの場合で1540円の月会費がかかる。月会費を払わないビジターの場合は15分までが132円、以後は1分8.8円。1時間あたりだと528円である。

 筆者はロングドライブ中、幾度か普通充電を試してみた。そのうち静岡~愛知県境にある道の駅「潮見坂」での200ボルト15アンペア=3kW充電を例に取ると、スタートから3時間15分で充電率は39%から89%へと50%ぶん回復した。新料金体系の会員価格の場合、充電料金は750.75円。投入電力量のほうはというと推定9kWhである。1kWhあたりの充電器使用料=実質電力料金は83.4円だ。

 1kWhあたり10km走ると仮定すると、走行コストは1kmあたり8.3円となるが、これはレギュラーガソリン価格166円、燃費20km/リットルの軽自動車とブレイクイーブン。それより燃費のいい軽自動車には負ける一方である。

 BEVに力を入れてきた日産も9月に独自サービス「ZESP3」の値上げを行う。従来、普通充電料金はプランによって無料~1.65円/分だったが、それが3.3円/分になる。トヨタ自動車はすでに今年4月「EV・PHVサポート」を値上げ済み。4.95円/分プラス月会費と高額だ。

 自動車メーカーが独自の充電サービスの価格をこれだけ大幅に引き上げたのはeMP社の卸価格引き上げの影響とみられる。大容量バッテリーを搭載する高価格帯のBEVを除き、とくに影響を受けるのは、自宅での普通充電ができない集合住宅住まいのユーザーだ。

 BEVを使うベースとなる普通充電の公共スポット利用料金がこれほど高くなっては走行コストでガソリン車にボロ負け。住宅事情の悪い都市部に公共スポットを整備してBEVの普及を図るという行政プランは、先行きが危ぶまれる事態と言っていい。