スバル・ソルテラのフロントビュー(筆者撮影)

(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

「CASE時代」の到来で危機感を強めるスバル

「2028年以降、バッテリー式電気自動車(BEV)の国内生産能力を年40万台に」
「現行モデル『ソルテラ』に加えて2026年末までにSUVタイプのBEV3モデルを追加投入」

 2006年にトヨタ自動車の出資を仰いで以降、BEVについて静観してきたSUBARU(スバル)が、ここにきて矢継ぎ早にBEVの将来戦略を打ち出している。年産100万台クラスと、完成車メーカーとしては小規模なスバルにとってBEVモデルの年産40万台体制というのはかなり思い切ったプランである。

 その変革の舵取り役を担うのが、今年6月21日の定時株主総会で代表取締役社長として承認された大崎篤新社長である。同氏は総会の挨拶で、

「(スバルの)ありたい姿である笑顔を作る会社の実現のために競争力を飛躍的に高めていく。新たな時代の新たなスバルづくりに向けて着実に前進したい」

 と述べ、次世代戦略に意欲を示した。

 今日、世界の自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の4分野を巡って熾烈な競争が展開されている。企業規模が小さく、研究開発費も限られるスバルにとっては非常に生きにくい時代である。救いは技術ファームとしては世界トップクラスのトヨタとアライアンスを組んでいることで、電動化も基本的にはそれを軸として進めていくことになるだろう。

 だが、技術的な拠り所があることとスバルブランドの存在意義を保てるかどうかはまったく別問題だ。

 スバルブランドといえば水平対向エンジン、AWD(4輪駆動)、雪国での使い勝手の良さ、かつてはWRC(世界ラリー選手権)での活躍などによって確立された。市販モデルで金看板としているのは安全性の高さだが、それと並んで乗り心地が優れていることもあり、アメリカでは安全で快適であるという定評を得るようになってから販売が急伸。現在は同社の圧倒的なマスマーケットとなっている。航空機メーカー、中島飛行機の系譜を汲むというレジェンダリーな歴史を持つことも、ファンを喜ばせる要素である。

 そんな古典的な良さを身上とし、少数派の顧客から強い支持を得ることで成長してきたスバルにとって、クルマが画一化に向かいかねないCASE時代の到来は創業以来最大のハードルと言っても過言ではない。

 大崎氏の「新たなスバルづくり」という言葉には、新時代への適応を一歩間違えればあっという間にスバルブランドが埋没してしまうという危機感がにじむ。果たしてスバルはトヨタとのアライアンスを生かして存在感を発揮し続けることができるのか。