Honda eのフロントビュー(鹿児島にて筆者撮影)

(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

BEVの課題になっているのは「充電時間」

 2040年に“純電動化”100%を目指すと宣言したホンダ。今春にはソニーとの電気自動車の開発協業を発表、また中国では小型SUV「ヴェゼル」をBEV(バッテリー式電気自動車)化した「e:NS1」「e:NP1」を発売した。だが、将来ビジョンの本命は2013年以来電動化で同盟関係を築いてきた米ゼネラルモーターズ(GM)との協業にある。すでに2024年にGMとプラットフォームを共有するBEVを発売する計画を公表済みだ。

 世界各国の自動車メーカーがこぞってBEVの新商品を投入している中で2024年に本格攻勢というのは一見遅いように感じられるかもしれないが、スピード感については実は大きな問題はない。現時点における電動化の技術水準はキャッチアップが不可能なほど高いわけではなく、後発であっても頑張れば十分にビジネスになる。

 BEVの課題となっているのはひとえに充電時間だ。最もハイスペックなBEVでも急速充電に数十分もかかるというのではお話にならない。「家で充電するから大丈夫」「30分で200kmぶん充電できれば十分」といった意見が欧州や中国のBEV推進派から聞かれるが、そのスピードではたとえ使う側がそれで我慢できたとしても、充電網を提供するビジネスのサスティナビリティが確保できない。

「今は電気料金に設備利用料を乗せて利益を出せる状況にない。BEVが相当普及してひっきりなしに利用されるという状況だったと仮定しても1回5分。別に走行税の負担も発生するようになることを加味すると、それで400kmくらいの走行距離を提供できるようになって、初めてお客様が納得する価格でサービスを提供しつつ充電器の設置、運用を行う業者が純利益を上げられるようになる」

 とある電設企業首脳は、過去の充電設備の運用実績に鑑みてこう語る。もともと日本は三菱自動車が2009年に世界初の量産BEV「アイミーブ」を、少し後れて日産自動車が「リーフ」を発売。それに合わせて急速充電器の設置も進められるなど、BEVではロケットスタートを切った国だ。が、黎明期には十分とされた設備が時代を経てスペック不足となり、再投資を迫られているというのが実情である。

量産BEV世界第1号の三菱アイミーブ。Honda eと同じく後席後方に電気モーターを搭載し、後輪を駆動するRRレイアウト(筆者撮影)
第1世代の日産リーフ。日本はBEVづくりも充電インフラ整備も世界の先陣を切っていた(筆者撮影)

 では、日本規格とは比較にならない超高速充電を実用化している欧米、中国は安泰かというとそうでもない。

 たとえばテスラの最新の充電器はベストエフォートでなく実測で最大受電電力250kWというスピードを出しているが、それでも8分台で200kmぶん。前出の電設企業首脳が示した理想のスピードの3分の1程度。今はすごいもののように感じられても、日本の第1世代急速充電器のようにいずれ時代遅れになる。今大切なのは一時的なシェアの変動より、その先の技術進化とそれのコモディティ化を見越したストラテジーだ。