(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
苦境続きだった三菱自動車を救った「アウトランダーPHEV」
三菱自動車が昨年12月に発売したPHEV(プラグインハイブリッドカー)の中型SUV「アウトランダー」のセールスが好調だ。目下のスコアは発売から2カ月で受注1万台、月平均販売台数2000台弱というもの。ささやかな数字にも思えるが、商品企画を手がけるライバルメーカー幹部の見方は異なる。
「平均売価500万円超の高額モデルが月販4桁というのは大衆車ブランドにとっては立派な成果。しかも今日、ハイブリッドカー以外の電動車の主流は圧倒的にBEV(バッテリー式電気自動車)で、PHEVは傍流になっている。そのPHEVで顧客の支持を集められるという点も驚きです。三菱さんはPHEVを10年近く手がけていて、その評価も結構高いものがありました。そういう継続的な取り組みが花開いたということでしょうか」
当の三菱自動車関係者も、これまでの経営危機を考えると気を緩めてはいけないとしながらも、思わず顔をほころばせる。
「強がりでなく好調と言えたのは本当に久しぶり。前はどのモデルだったか即座に出てこないほどです。部品不足による生産遅延でお客様にはご迷惑をおかけしていますが、頑張って作っていきたいと気を引き締めています」(ベテラン社員)
入社年次が浅い社員にとっては自社ブランドの商品が注目を浴びること自体初めてということで、新鮮な体験であるという。
この四半世紀ほど、三菱自動車は身から出た錆とはいえ、傍から見ていてもこれほど茨の道があるのかと思うほどの苦境に立たされ続けてきた。1996年、アメリカの子会社がセクハラで集団訴訟を起こされたのを皮切りに、1997年には三菱グループ全体を揺るがした総会屋への利益供与(通称「海の家事件」)、2000年と2004年の二度にわたるリコール情報隠蔽──と、不祥事を立て続けに起こしたことで、社会からの信用を失う。
その後、三菱商事をはじめとする三菱グループの支援を受けて再起を図った。一時は配当を復活させるまでに経営状態が改善されたが、2016年に発覚した燃費審査のデータ偽装によってそのスキームは呆気なく崩れた。これを機に日産自動車の大規模出資を受け、経営の主導権は三菱グループからルノー・日産アライアンスに移った。
これで一旦落ち着くかと思いきや、今度はルノー、日産両社の絶対権力者として君臨していたカルロス・ゴーン元会長が逮捕、逃走、国際指名手配というスキャンダルが発生し、アライアンスが混乱。そしてコロナ禍という未曽有の逆風を受けての巨額赤字。
ほとんど絶体絶命という状況の三菱自動車にとって、まさに“干天の慈雨”となった感のあるアウトランダーは、果たしてどのような商品性を持っているのだろうか。北関東を中心に600kmあまり走行して確認してみた。