“ボランティア三銃士”のサイモン、アリョーナ、ジェーカ(左から、筆者撮影)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

「誰もが知っている危険性を侵略者は斟酌しない」

[ウクライナ南部ヘルソン市発]6日未明、ウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川のカホフカ水力発電所ダム(高さ30メートル、幅3.2キロメートル)が爆破され、洪水で下流域約600平方キロメートルが水没した。その7割近くがロシア軍占領地域だが、昨年来、ウクライナ軍の渡河作戦に備えロシア軍が爆破を準備していたと指摘されていた。

 ダムを管理するロシア軍が放水などの調整を怠ったため、決壊時のダムの水位は30年ぶりの高さだった。ウクライナのイホル・クリメンコ内相は12日、「10人が死亡し、子供7人を含む42人が行方不明」と発表した。ロシア兵の水死体がオデーサ港に流れ着いたという話もある。4万人超が影響を受け、70万人に飲料水が必要とされる。

ダム爆破で増水したドニプロ川。「ドーン」と近い砲撃音と「ゴロゴロ」という遠い砲撃音がひっきりなしに鳴り響いた(12日、ヘルソン市で筆者撮影)

 排泄物や産業廃棄物だけでなくロシア軍が仕掛けた地雷も流出し、1986年のチョルノービリ原発事故以来、ウクライナ最大の「エコサイド(生態系破壊)」となった。

 ヘルソン州に隣接するドニプロペトロウシク州の電気技師ジェーカは「侵略者が考えなしに多くの民間人が苦しむ悲しみを引き起こした。水力発電所に多くの影響が出る。ザポリージャ原発への水の供給も滞り、原子炉の冷却に支障を来すことも懸念される。誰もが知っている危険性を侵略者は斟酌しない」と話す。

 カホフカ貯水池はザポリージャ原発の水源だ。水力発電責任者は「水位はすでに12.5メートルまで下がった。集落やザポリージャ原発に水を供給できなくなる“デッドポイント”の12.7メートルより低い」と危機感を募らせる。ザポリージャ原発の職員はいかなる事態にも対処できる態勢をとっている。