(国際ジャーナリスト・木村正人)
英TVドラマ『お父さんの軍隊』そのもの
[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]決して屈強とは言えない中年太りの男たちが草むらに身を隠し、訓練用の旧ソ連製AK-47の模擬銃を構える。17人の領土防衛隊員は攻撃と防御チームの二手に分かれ、突撃訓練を行っていた。
摂氏22度の快晴。男たちの顔は赤みを帯び、「ハー、ハー」と息が上がる。くたびれたカーキー色のTシャツに汗がにじむ。
AK-47を発射する時は「タタタタタッ」と口で音を出し、石ころが手榴弾代わりだ。爆発音は「ボーン」と大きな声を出す。攻撃チームの7人は模擬のAK-47と旧ソ連製対戦車擲弾発射器RPG-22を使いながら、防御チームを後退させ、建物内に逃げ込んだところを手榴弾で無力化させるという想定だ。「訓練」というより「戦争ごっこ」に近い印象だった。
ウクライナ滞在が通算2カ月を超える筆者は、顔つき、体つきを見れば実戦経験のあるなしを次第に判断できるようになってきた。実戦経験者は、目は笑っていても、一分の隙もない。体全体から殺気さえ漂わせる。この日の男たちは40代、50代が中心で、ひと目見てフィットネスが良くないことが分かる。訓練が終わると日陰でタバコを吸い出す兵士もいた。
英国暮らしの筆者は英BBC放送の人気TVドラマシリーズ『お父さんの軍隊(Dad's Army)』を思い浮かべた。モデルとなった第二次大戦中のホームガード(もとは地方防衛義勇軍)はナチスドイツによる英国本土侵攻に備え、年齢、健康、徴兵が免除される職務などを理由に、軍務に就くことができない地元ボランティア(17~65歳)で構成されていた。