アゾフスタリ製鉄所で投降し、昨年9月に解放されたアゾフ連隊司令官ボフダンさんと妻のナタリアさん(ナタリアさん提供)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

最後に夫を訪ねたのはロシア軍侵攻の1週間前

[ウクライナ南部ザポリージャ発]アゾフ海に面したウクライナ南東部の港湾都市マリウポリのアゾフスタリ製鉄所が陥落して20日で1年。露国防省は昨年5月、ウクライナ軍やアゾフ連隊の兵士ら2439人が投降したと発表したが、これまでに帰還できたのはわずか約500人。帰還できても兵士たちは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しめられている。

 アゾフスタリ製鉄所に立て籠もった兵士たちの妻や母、家族の会「鋼鉄の女性」はたった4人でスタートし、4000人に膨れ上がった。代表の1人、ナタリア・ザリツカさん(37)の夫ボフダンさん(32)はアゾフ連隊司令官だった。昨年5月、軍の命令で武器を捨てて投降、捕虜になった。同年9月に捕虜交換で帰還した215人の中にボフダンさんはいた。

「捕虜になった兵士の帰還は第1歩に過ぎず、第2の闘いは彼らが普通の生活に帰還することです」とナタリアさんは語りだした。

 ボフダンさんは背骨や腎臓、膝の損傷、視力や聴力、感覚の低下、手足の知覚過敏、PTSDなど、今も心身に多くの問題を抱えている。ナタリアさんと二人三脚でリハビリに取り組むが、社会復帰までの道のりは長く、遠い。

 教師だったナタリアさんはロシアが2014年に武力でクリミアを併合、東部ドンバスで紛争を起こした時、前線に行こうと決心した。しかし父が病弱だったため、代わりにウクライナ軍兵士を支援することにした。連絡先を教えてもらったアゾフ連隊の1人がボフダンさんだった。ナタリアさんは「何かお手伝いできることはありますか」とメッセージを送った。