戦闘を想定した実戦さながらの外傷救護訓練(筆者撮影)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

アゾフスタリ製鉄所籠城戦で英雄になったアゾフ連隊

[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]クリヴィー・リフにある訓練キャンプで、まだあどけなさが残る10代後半の若者たち十数人が迷彩服に身を包み、AK-47の訓練用模擬銃を構える。アゾフ海に面した港湾都市マリウポリのアゾフスタリ製鉄所籠城戦でその名を世界中に鳴り響かせたアゾフ連隊を志願する若き候補生たちだ。

 9週間に及ぶ激しい訓練の後、アゾフ連隊に入隊できるかどうかふるいにかけられる。15歳の救急隊員ナザールは「アゾフ連隊に入って祖国を守りたい」と決意に満ちた表情で語った。「ヤクブ」というコードネームを持つ小柄なナザールはプロの救急救命士で、すでに2回の戦闘任務を経験している。

15歳のナザール(左)と戦前は裁判所で働いていた教官のユーリー(筆者撮影)

 自治民兵だったアゾフ連隊はかつて白人至上主義者やネオナチの思想や紋章と結びついていた。ウクライナ国家親衛隊への統合後、米議会で外国テロ組織に指定することも議論された過去がある。ネオナチの過去はウラジーミル・プーチン露大統領に利用され、「ウクライナ侵攻はネオナチによる大量虐殺からロシア語話者を守る特別軍事作戦」と位置付けられた。

 昨年5月からウクライナ軍に従軍し、米陸軍仕込みの戦闘外傷救護を指導している元米陸軍兵士マーク・ロペス(ウクライナ軍少佐)と、戦前は裁判所に勤めていたとはとても思えない屈強なユーリーが教官だ。ロペスが戦場での点滴や気管切開、胸に針を刺して肺と胸壁の間に溜まった空気を抜く胸腔穿刺の説明を始めると、若者の1人が暑さで倒れ込んだ。