対独戦勝78周年軍事パレードで演説するプーチン大統領(5月9日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

プロローグ/歳歳年年軍不同

 旧ソ連邦諸国にとり、毎年5月9日は1年で最大の「祝日」(お祭り)になります。この日、ドイツ軍がソ連軍に降伏したからです。

 しかし、欧州では「終戦記念日」は5月8日です。なぜでしょうか?

 昨年2月24日のウクライナ侵攻開始後のウラル原油下落により、ロシア(露)の国家予算赤字幅は今後さらに拡大し、戦費問題はますます表面化・深刻化するでしょう。

 ロシアのV.プーチン大統領(70歳)にとり、油価下落は大いなる誤算でした。

 ウクライナ侵攻電撃作戦は2~3日で収束する予定でしたが、泥沼化・長期化は想定外でした。

 ウクライナ戦争は誤算の連続であり、今ロシアで一番困惑しているのは、実はプーチン大統領その人ではないかと筆者は想像する次第です。

 筆者は毎年、モスクワ「赤の広場」で挙行される軍事パレードの実況中継をTVで観察し、V.プーチン大統領の一挙手一投足に注目してきました。

 今年も観ましたので、本稿では「赤の広場」における軍事パレードの印象と、発表されたプーチン大統領演説を総括してみたいと思います。

 もちろん、筆者の個人的感想にすぎない点を明記しておきます。

 最初に結論を書きます。

 モスクワ「赤の広場」にて5月9日に挙行された今年の軍事パレードは、結果として過去最悪の軍事パレードになったと判断します。

 ロシア国民もこのパレードを観て、ロシアの行く末を案じていることでしょう。

 ロシア経済は油価(ウラル原油)依存型経済構造です。その油価は現在下落傾向にあり、油価低迷と戦費拡大によりロシア財政は破綻の危機に瀕しています。

 ロシア財務省は5月10日、今年1~4月度のロシア財政収支を発表。今年の国家予算案は2.92兆ルーブル(約5兆円)の赤字予算ですが、1~4月で既に3.42兆ルーブルの赤字となりました。

 このまま油価(ウラル原油)低迷と戦費拡大が続けは、今年は10兆ルーブル以上の財政赤字となるでしょう。

「赤の広場」の軍事パレードで流れる軍歌と「カチューシャ」(戦時歌謡曲)は毎年同じです。

 しかし、今年の軍事パレードで軍楽隊が奏でる音楽はロシア軍の「軍隊行進曲」ではなく、ロシアの「葬送行進曲」に聞こえました。

 唐の詩人劉希夷の「代悲白頭翁」(白頭を悲しむ翁に代わる)に、人口に膾炙する名句があります。

年年歳歳花相似 歳歳年年人不同(年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず)

 この名句を拝借すれば、今年の「赤の広場」における軍事パレードには下記対句がよく似合います。

年年歳歳曲相似 歳歳年年軍不同(年々歳々曲相似たり 歳々年々軍同じからず)