頑迷固陋の老人と化したプーチンによりロシアは経済的にも歴史的にも大きな負債を背負うことになる(写真はモスクワ)

プロローグ/マスコミ界を徘徊する神話

「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という名の妖怪が」

「一つの神話がマスコミ界を徘徊している。石油・ガス収入によりロシアの戦費は問題ないという神話が」

 前者は『共産党宣言』(K.マルクス)冒頭の一句、後者は筆者のパロディーです。

 筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、戦費問題に言及してきました。

 しかし、マスコミ界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間テレビには「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する経済評論家も登場しました。

 ロシア軍は2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始。この原稿を書いている本日1月14日はプーチンのウクライナ侵略戦争から325日目となり、ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入っており、もうすぐ丸一年を迎えます。

 本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)は制圧され、ロシア軍は解放軍としてウクライナ国民から歓呼の声で迎えられ、V.ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、V.ヤヌコービッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。

 その証拠に、露国営RIAノーヴァスチ通信は侵攻2日後、キエフ陥落の予定稿を流すという珍事が発生しています。

 ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露V.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。

 戦況悪化と正比例するかのごとく、ロシア政治に内包されていた矛盾が次々と顕在化・表面化してきました。

 祖国防衛戦争を標榜する現在のプーチン大統領の姿は、大東亜共栄圏を標榜する太平洋戦争末期における旧日本軍大本営末期の姿と瓜二つと言えましょう。

 プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。

 S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。

 換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えます。

 今回の人事異動の特徴は、3人の副司令官が任命されたことです。

 O.サリューコフ地上軍総司令官(上級大将)とA.キム参謀次長(大将)も副司令官に任命され、国防省として背水の陣を敷いたことになります。

 これでロシア軍敗退となれば、S.ショイグ国防相(上級大将)は解任必至です。

 なお、今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えます。

 継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。

 ロシア経済の規模は小さく(GDPは日本の4分の1程度)、経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。筆者は開戦当初より、カネの切れ目が縁(戦争)の切れ目と主張してきました。

 ウクライナの大地では今春、日露戦争の奉天会戦、第2次大戦の欧州戦線におけるクルスク戦車戦のような大規模な会戦が展開し、会戦後に停戦・終戦の姿が垣間見えてくるものと予測します。

 本稿の結論を先に書きます。

 ロシア経済は油価依存型経済構造です。油価の長期低迷がソ連邦崩壊のトリガーになりました。

 油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、戦費が枯渇・消滅する結果、早晩プーチン大統領は停戦・終戦を余儀なくされるでしょう。